結局、トロールの討伐依頼を完了したのは三日後の事であった。
魔の森には、その名に恥じぬ通り多種多様な魔物が跋扈しており、トロールを見つけるのにも苦労したのである。
依頼に思ったよりも時間がかかる事を理解したレヴィンは、そこは割り切ってしまう事にした。
と言っても、前から考えていた通りの方針であるのだが。
依頼はついでで、とにかく魔物を多く倒す事に注力するのである。
強さを追求し、どんどん上級職へステップアップする事を第一の目標とするのだ。
そんなこんなでカルマと魔の森を往復する日々が始まった。
あっと言う間に時間は過ぎていく。
気が付けばもう夏休みも終わりに近づいていた。
今日も今日とて魔の森に向う。
現在、受けている依頼はマッドゴーレムの討伐依頼だ。マッドゴーレムは本来ランクDの魔物なのだが、森の中の沼地に大量に発生していた事とその沼地がガラシアタイマイの生息地である事からランクCの依頼として掲示板に貼り出されていたのだ。
ガラシアタイマイは甲羅がガラスでできている非常に高価な素材で取引される亀の魔物だ。
マッドゴーレムが邪魔でガラシアタイマイの捕獲に支障が出ているのだろう。
早速、その沼地へと一行は足を運んだ。
そこは少し森の奥に入ったところにある。
深い森の中、太陽の光が中々差し込まない森の奥においてもそこは、比較的日当たりの良い場所であった。
以前は暗く深い森の中の沼地であったはずだが、変化している。
沼地の周囲の木々は、人工的に切り倒されているのである。要は間伐されているのだ。
誰がそんな事をしているかと言うと、おそらく蜥蜴人だろう。
蜥蜴人は人間よりも体格に優れ、筋肉隆々で2mを超える大柄なものが多い。
その膂力も並はずれており、さらには知恵も持っている。
人語を解する事もあって、魔物にもかかわらず、討伐の対象になっていない。今のところはであるが。
しかし、人間には魔物=悪と考えているものも多く、諍いが絶えないのも事実であった。
特に何事もなく問題の沼地に辿り着くと、沼地の観察を始める一行。
しかし、観察するまでもなかった。そこかしこにマッドゴーレムが突っ立っているのだ。
その数およそ三十体。確かに多過ぎである。
大量発生の原因は解らないが、とりあえず駆除しようと沼地に足を踏み入れようとしたその時、一行は横手から声をかけられたのであった。
「ここで何をしている?」
胸に古傷を持つその蜥蜴人は、人間がいる事に不満を持っているのか不機嫌な声色をしている。
レヴィンが代表して会話が始まった。
「マッドゴーレムが大量発生していると聞いて討伐にやってきました」
「ああ、あれか俺達も邪魔だと思っていたのだ」
沼地に住む蜥蜴人が邪魔だと言うからには何か訳があるのだろう。
以前と違うこの辺の風景とも何か関係があるのかも知れなかった。
「もしかして、この辺に集落でも作ったんですか?」
「ああ、我々は最近ここを住処と決めたところだ」
やはり、森に手を入れたのは蜥蜴人のようである。
「そうですか。では僕達はマッドゴーレムを倒しますので」
そう言うと沼地に足を踏み入れる一行。
その蜥蜴人は、手伝わないようだ。蜥蜴人がマッドゴーレムを倒そうとすると、被害が出るのは避けられない。
人間がやってくれると言うなら、それに越したことはないとの考えなのだろう。
「んじゃ、打ち合わせ通りに行こう」
レヴィンがそう言うと、他の皆は思い思いの返事をしたのであった。
マッドゴーレムはその体の中心に核のようなものがある。
それを壊さない限り、手足を斬っても再生するし、頭を潰しても動きは止まらないのだ。
近づいて来る人間に気づいたのか突っ立っていたマッドゴーレムは、体から矢のようなものを創りだして射かけてくる。
普通なら難なくかわせるのだが、ここは沼地である。足場がかなり悪い。
ダライアスとヴァイスは沼地をズッポズッポとゆっくり歩きながら接近していく。
今回ベネディクトは黒魔法で倒すようだ。沼地には足を踏み入れない。
レヴィンは光弓で一体一体確実に破壊していく。
ベネディクトは氷錐槍を使っていくようだ。
マッドゴーレムは近づくダライアスとヴァイスに矢を放っていく。
剣でそれを叩き落としながら接近し一刀の元に斬って捨てようとするのだが、沼地のマッドゴーレムは意外と素早い。
彼等は沼地がホームなのである。
しかし、レヴィンとベネディクトの魔法によって次第に数を減らしていくマッドゴーレム。
アリシアも数少ない攻撃魔法を放ち始めた。
最初から全て魔法で片づければ良かったのではと、ダライアスとヴァイスが思い始めた頃、さしたる苦労もなくマッドゴーレムの討伐は完了した。
レヴィンはダライアスとヴァイスに大声でお願いする。
「沼地に入ったついでに魔石の回収もよろしくー」
ダライアス達がちょっとばかりイラっときたのも仕方のない事であろう。
そしていつの間にか隣りにいた蜥蜴人は、いつの間にか、その数を増やしていた。
「こんなにあっさり倒してしまうとは、大したものだな……」
その中の軽装鎧を身に纏い、大剣を腰に佩いた、一際大きい蜥蜴人は、誰に言うでもなくそう言った。
しかし、レヴィンはそれが自分にかけられた言葉であると勘違いして返事をする。
「そんな大した事じゃないですよ。あの程度、ランクDの冒険者くらいならやってのけるでしょう」
「すごい自信だな。しかしこれで沼地に平穏が戻った訳だ。我等としてもありがたいこと……。我々の集落に顔を出してくれぬか? 是非お礼がしたい」
「なッ!? 首領ッ! 人間なんぞにお礼なぞ……」
首領らしき男の言葉に異論を唱える一般兵Aであった。
一方のレヴィンも小鬼と交流するくらいの変人である(人間からすれば)
人語を解するなら魔物と交流する程度のことはやぶさかではない。
そんなレヴィンの言動にいちいち異論を唱えていたらきりがない。
彼の性格を十分に理解して何も言わない仲間達であった。
そして一行は、蜥蜴人の集落へと足を踏み入れたのであった。
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