約束の期日がやってきた。天気は秋晴れ。
人間と小鬼の話し合いの場が小鬼の集落の広場に設けられていた。
簡易な天幕に低いテーブルと藁のようなものであんだ座布団が用意されている。
レヴィンはランゴバルトとノンナを集落へと案内した。
話し合いは、人間側がランゴバルトとノンナ、小鬼側がガンジ・ダとジグド・ダである。
レヴィンは中立の立会い人のようなものである。
全員が席につくと、レヴィンが最初に口を開く。
「では、話し合いを始めたいと思います。どっちが先に襲ったかなどは水掛け論になってしまうので、なるべく避けてください」
続けてガンジ・ダとジグド・ダが自己紹介を始めた。
「今日は、わざわざご足労頂きありがとう存じます。儂がこの村の長老で司教をしているガンジ・ダと申す者です」
「私はジグド・ダと言う。小鬼将軍として村を護っている。よろしくお頼み申し上げる」
ジグド・ダの一人称が私になっているのに気付いて、これも『種族進化』の影響かなと考えるレヴィンである。
次は人間側の紹介だ。ランゴバルトが話し始める。
「俺は王都ヴィエナの冒険者ギルドの長をしているランゴバルトと言う。よろしく頼む」
「私はノンナと言う」
心なしか人間の方が偉そうに見えるレヴィンであった。
ノンナに至っては、名乗っただけだ。
「先日の衝突は不幸な事故のようなものであった。儂等としては人間と敵対するつもりは毛頭ない。儂等を討伐するのは止めて頂きたい」
「俺としては、あんた達が人間を襲わないと言うのなら仲良くすることもやぶさかではないと思っている」
「約束しよう。実際にこの村の者はもう長い間、人間を襲ってはいない」
おお!もう解決かと思うレヴィンであったが、事はそんなに甘くなかった。
これからがジグド・ダとノンナの本当の応酬なのであった。
「それが事実であると言う証拠はないし、私は小鬼族を信用できるとは考えていない」
「証拠を出せと言われても、やっていないと言うしかない」
「私の知っている小鬼という種族は、総じて獰猛で小賢しく、下卑た存在だ。断じて信用できない」
「それは貴殿の見識が狭いと言うしかない。世界は広い。我々は平和を好む部族だ」
久々に口を挟む、ガンジ・ダ。
「私を愚弄するのか、こずるい小鬼共。私はもう100年以上この世界を生きてきた」
「愚弄しているのは貴公の方ではないか! 私はずるい事を好まない」
それからしばらく、ノンナが如何に小鬼が獰猛で信用の置けない種族であるかを熱弁する場面が続いた。
すると、ジグド・ダがノンナが言った事、全てに反論する。
レヴィンはジグド・ダの変化に驚かされていた。
「そもそも小鬼族は、その邪悪さから精霊族から追放された種族だ。それは歴史の偽りのない事実である」
「かつてそういう事があったのかも知れない。しかし我々は進化する事ができる。そんな神話の時代の話をされても困る」
先程から人間側はノンナしか話していない。
彼女は、かなりヒートアップしているように見える。
ランゴバルトもノンナに対して諦めた表情をしている。
「勝手な決めつけから我等を滅ぼそうとする考えこそ傲慢であり、邪悪でなくて何と言うのか」
「勝手な決めつけではない。厳然たる事実だと言っている」
「我々は人間との話し合いの場を設けたのだ。精霊族は黙って見ていればよい」
「私を愚弄するかッ! そもそも精霊の森は精霊族のものだ。いつ誰がお前達が森に住みつく事を許可したのだッ!」
ノンナの怒りに火が点く。というか点きっぱなしのような気がする。
そこでレヴィンがずっと黙っているランゴバルトに話を振る。
「僕はちょっとノンナさんの意見は偏っているような気がします。ランゴバルトさんどうですか?」
「そうだな……そちらの言い分はもっともなんだが、ノンナの意見も無碍にはできんのだ……」
ええ……ランゴバルトは弱みでも握られているのだろうか?
レヴィンも納得がいかない。
「うーん。これじゃあ、いつまでたっても話は平行線ですね……」
「そうだ……そうなのだッ! 小鬼族が精霊の森から退去すれば解決する話ではないか!」
ノンナが何だかまた強烈な事を口走っている。
「それはちょっと横暴すぎませんかね?」
レヴィンが非難の声を上げる。
「どこが横暴だと言うのだ? 精霊の森に精霊族以外の種族が住むのはおかしいだろう」
「精霊の森には魔物もたくさん住んでいるじゃないですか?」
「そうだな。魔物は討伐しなければならないな」
ノンナはシレっとそう言った。
結局、この日の話し合いは平行線に終わった。
二時間ほどの議論は、ほとんどノンナとジグド・ダの言い合いであった。
一旦引き揚げとなって、帰ろうとすると、ノンナが故郷に寄ってから帰ると言い出したのでレヴィンはランゴバルトと二人で小鬼の集落を後にした。
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