七月も初旬を迎え、段々とやる事が増えてくる。
学校では夏休みも近づいてきているが、その前に実技試験と筆記試験がある。
生徒達は夏休みの事で頭がいっぱいなのか、浮ついている者も多いようだ。
その前に試験だぞ。大丈夫かこいつら。
夏休みを前に、レヴィンのパーティも狩りは試験休みという事にして、放課後は勉強に勤しんでいる。
とは言っても、ほとんどアリシアの勉強を見てやっているような感じだ。
実技試験の方は問題ないようである。
授業で覚えた魔法がどの程度使用できるか見られるのだが、アリシアやシーンは、多くの者が手こずると言われている、魔法陣を描く事に関しても今のところ特に苦労していないとの事だ。
僥倖である。
今日の日付は七月七日、七夕だ。前世では。
こちらの世界では何か行事があるのかと調べた事もあったが、何かの記念日などで祝日はあるようであったが、端午の節句などのような行事は今までやった事はない。
単に記憶の中に埋もれているだけかも知れないが。
レヴィンは昨日の夜、庭の低木に、願いをかいた紙を結んでおいた。
願い事は、母が無事に元気な赤ちゃんを産んで母子ともに健康でありますように。というものである。
それほど兄弟の誕生が嬉しいレヴィンなのであった。
家族には何の儀式だと不思議な目で見られたが、こうしておくと紙に書いた願いが叶うんだとよ、ありのままを説明しておいた。
授業も特に問題なくこなし、昼休みを迎えると、また生徒会から勧誘が来た。
初めての来訪時から毎週、レヴィンの下に副会長がやってくるようになったのだ。
「ふッ! 今日も誘いに来たわよ」
今日も元気そうで何よりである。
「お疲れ様です」
「今日は趣向をかえてみるわ。実はきたる、七月二十三日の午後から夜にかけて騎士中学校との交流会が予定されているの」
「ああ、聞いた事がありますね。どんな事をするんですか?」
「ふッ! 喰いついたわね! まぁパーティのようなものよ。毎年行われているんだけど、今回は魔法中学校が会場で、魔力具現化装置の体験をさせてあげたり、施設を見学させてあげたりして、あとは雑談や交流を楽しむ会になるわ」
「何人くらい集まるんです?」
「百名以上じゃないかしら。こんな規模の行事を仕切るのは大変だな~。どこかに有能な人はいないかな~」
なんか露骨な態度を取り始める、エレノーラ副会長。
面白いなこの人。
「いいですね。参加するだけでいいなら行きますけど」
「そ、そうねッ! まずは参加者として、裏方の私達の仕事を見てみるといいわッ!」
突然の参加表明に驚いたのか、エレノーラはそう言うとスキップしながら、この場を後にした。
午後の授業は上の空であった。
出産の事で頭が一杯だったのだ。
先生に注意される事、三回。三回目は無能の証だ。やっちまった。
何とか授業をやり過ごすと、寄り道せずに家路を急いだ。
家に帰ると、家の中がバタバタを騒がしかった。
近所の女衆が家に押しかけてきている。
レヴィンはすぐに理解した。
リリナが産気づいたのだ。
グレンは何かしようとウロウロしているが、邪魔なだけなのか、「男はあっち行ってなさい」と言われ落ち込んでいる。
そこへ医者と産婆が到着した。
レヴィンはすぐに彼等の下に駆け寄ると、頭を下げる。
「先生、母さんをお願いします!」
「もちろんだとも。君達は向こうの部屋で神に祈っていなさい」
「え? 出産に立ち会えないんですか?」
すると、それを聞きつけたのかベネッタが小さな声で叱りつける。
「男にできる事はないよッ! レヴィン、あっちの部屋にいな!」
それを聞いたレヴィンは、この世界ではそういうものなのかと諦めてグレンと隣の部屋へと向かった。
グレンは落ち着かないのかソワソワして、部屋の中で右往左往している。
気持ちは解らんでもないが、落ち着け親父!
ただ時間だけが過ぎてゆく。
科学の発達した前世でも出産というのは危険な大仕事なのだ。
ましてや科学の概念もないような未発達な世界では推して知るべしであった。
レヴィンは神様にひたすら祈っていた。
(神様、結婚と出産の神様エメリスよ……どうか母子共に無事でありますように……)
さらに時間が経過していく。
(出産に立ち会った事がないから解らないが、こんなに長引くのか!? まさか危険な状況なのでは!?)
よくない想像ばかりが頭に浮かんでは消えてゆく。
二十一時の鐘が鳴り、さらにどれだけ時間が立った頃だろうか?
突如、隣りの部屋からどよめきのような声がわき、同時に「おぎゃあ」と言う元気な声が聞こえてきた。
グレンと共に急いで現場に向かう。
七月七日、リリナ、第二子出産!
性別は女の子であった。
グレンは男泣きをしている。
レヴィンも赤ちゃんを見せてもらうと何故か涙が零れ落ちた。
こうして彼の長い一日が終わった。
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