ロイドは、しがない男爵家の長男で、目立たない精霊術士という職業の少し地味目な男子である。
魔法中学のSクラスに入る位なのだから、頭の出来はいいらしい。
今日、彼は親友のモーガンと共に、同じクラスのジャスティーナの舞踏会に顔を出していた。
ジャスティーナは以前のお茶会でレヴィンにアタックしていた子爵令嬢である。
しかし、主賓のジャスティーナはレヴィンがいないので少しぶーたれていた。
「肝心のレヴィン様がいらっしゃらないなんてついてませんわ」
「ま、まぁまぁ、レヴィンも貴族になって忙しいのでしょう」
そんな彼女をなだめているのは、呉服屋の娘エリンとその他数名の女子であった。
近くにいたロイドは親切にもジャスティーナに教えてやる。
「なんでもドルトムットに視察に行ってるって話だよ」
「まぁ、ドルトムットですって? 確か水の都と呼ばれる美しい都市だと聞いた事がありますわ」
「そうなんですね! 私も行ってみたいなぁ……」
エリンは水の都と言う美しい言葉にうっとりとした表情を浮かべながら言った。
そこへ、ドリンクを取って戻ってきたモーガンが口を挟む。
「領地経営もしなきゃいけないし、レヴィンも忙しくなりそうだな。今回の視察もそのためなんだろうよ」
「わたくしがおそばで支えてあげたいですわ」
ジャスティーナは恋に恋する乙女のような表情で一人盛り上がっている。
「ははッレヴィンの事だから、ドルトムットでも厄介事に巻き込まれていそうだね」
「え? どういう事ですか?」
エリンが不思議そうにモーガンに尋ねる。
「なんでも今年に入ってからもレヴィンは、色々と厄介事に巻き込まれていたみたいだよ」
「そうなの? 何かあったのかい?」
ロイドも知らなかったので気になるようだ。その言葉にモーガンが続ける。
「ほら、よく街中でデモをやってた集団がいただろ? その組織を潰したって話だ」
モーガンは噂話や情報に精通している。
ロイドからしてみれば、いったいどこから情報を仕入れているのか疑問に思うところだ。
モーガンの父親も王都の文官の家系なのである。大したコネもないだろうに……とロイドは思う。
「まぁ、また手柄をたてられたんですのね? 流石はレヴィン様ですわ」
「僕は、モーガンがどこから情報を仕入れてくるのかが不思議だよ……」
「ああ、俺は休み中に職業変更して他の職業を鍛えてるからね。情報はその副産物だよ」
「えッそうなのかい!? わざわざ転職士を手配してるんだね」
「元の黒魔導士だけを鍛えていても将来、行き詰まるかも知れないじゃないか。せっかく貴族に生まれたんだから色々な可能性を模索していかないと」
「モーガンは色々考えているんだな。僕も見習わなくっちゃな……」
「ロイドさんの職業は何でしたかしら?」
「地味で御免ね……精霊術士さ」
ジャスティーナの何気ない質問にロイドは少し傷ついた。
精霊術士である、自分の職業はいつも覚えてもらえないのだ。
しかしそれも仕方ないのかも知れない。
精霊魔法の研究は古くから行われているが、進展を見ていないのだ。
それほど謎の多い職業なのである。
「ロイドさんも職業変更すればいいじゃないですか。私達平民はしたくてもできないんですよ?」
エリンも元の職業の時魔導士を鍛える事しかできないので歯がゆいようである。
「何事も慣れですよ。チャレンジしなきゃ何も始まらない……」
「でも、レヴィンには精霊術士で徹底的に職業点を稼げって言われてるから……」
「え? そうなの? レヴィンの事だから何か考えがあるのか……?」
ロイドは以前レヴィンに言われた事を思い出していた。
『精霊術士はただの精霊魔法の使い手じゃない。おそらく精霊獣との契約が一番の特長なんだ』
そう聞いてからロイドは愚直なまでに職業点を日々稼いでいる。
ロイドは精霊獣が何なのか解らなかったので、レヴィンに聞いてみたが彼もよく知らない様子であった。
しかし、レヴィンが断言するくらいだからと、それを信じてやっているのである。
職業点が貯まってきたら教えてくれと言われているロイドであった。
「精霊獣って聞いた事あるかい?」
「せいれいじゅう? 聞いた事もないな。せいれいは精霊術士の精霊かい?」
「精霊の獣で精霊獣だよ。どうやらそれと契約できるらしい」
「ふーん。レヴィンは何でも知ってるよな」
「レヴィン様は知らない事なんてないのかも知れませんわ!」
ジャスティーナは興奮した感じで再び盛り上がっている。
こうしているうちに、ダンスの曲が流れ始める。
主賓であるジャスティーナは、多くの男子に誘われてダンスをしに向かった。
「俺も女子と交流してきますかね」
そう言ってモーガンも女子のグループの方へと歩いていく。
「ロイドさんは踊らないんですか?」
エリンの疑問にロイドは自嘲気味に答える。
「誰も地味な僕なんて相手にしないさ。君も誰かと踊ってきたらどうだい?」
「私、ダンスが躍れないんです。今、お父さんに言われて習ってるんですよ」
「じゃあ、僕と踊るかい? 何事も慣れ……だっけ?」
「解りました。是非よろしくお願い致します」
ロイドは、満面の笑みを浮かべてエリンの手を取って歩き出した。
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