朝を迎え、依頼された冒険者達が精霊の森へと赴き、捜索を行う。
冒険者ギルド一階は今日も朝から騒がしい。二階まで喧騒が届いてくるほどである。
それと比較して二階の対策本部室は静まり返っていた。
少しバタバタしたのは、早朝に冒険者達が出発していった時くらいである。
冒険者達に少し遅れて、王都の警備隊の一部がここに召集されていた。
エドワードは、レヴィン達がメルディナに居るのではないかと予想していた。
彼としては予想より早く初期対応として早馬を各都市に送り、警備網の構築指示をできたのではないかと思っている。
まだ早馬は各都市には到着していないだろうが、荷馬車で生徒六人を移送したとしてそれほど遠くに逃げおおせるとは思えなかった。
また、エドワードは校長である、ジェイソンとギルドマスター、ランゴバルトの連名で王都警備隊を統括している貴族に協力を要請していた。この部隊にはメルディナに赴いて都市内の捜索にあたるように通達を出してもらった。
メルディナに宛てた書簡にも、市内を捜索させてもらえるような依頼の文も入れてもらった。抜かりはない。
派遣される警備隊五十名の中にはアントニーの姿もあった。
彼はレヴィンとその家族を気遣って派遣隊に志願したのであった。
今、捜索隊の隊長に任命された者がジェイソンの前で敬礼している。
「それではただ今からメルディナに向い、行方不明の生徒捜索の任に着きます」
「警備隊の協力に感謝致します。よろしくお願い申し上げる」
そう言うと、捜索隊長が退出し、捜索隊は直ちに出発して行った。
部屋にはジェイソンとエドワード、ギルティ、グレンのみが残された。
他の教師は学校に戻り教鞭をとっている。また、ランゴバルトはギルドマスターの自室にいる。
「エドワード君、ここに居ても気を揉むばかりだ。それに情報をただ待っているのもつらいだろう。学校に戻りたまえ」
確かにSクラスは今、担任不在の状態だ。
誰かが代わりに指示を出してくれているだろうが、心配ではある。
それに校長の言う通り、ここに居てももうやる事もあまりないだろう。
エドワードは校長の指示に従う事にした。
「解りました。それでは学校に戻るとしましょう。校長、後はよろしくお願い致します」
「うむ」
ジェイソンはギルティと実質二人になって暇になったが気を抜いてはいられない。
生徒の保護者がこの場にいるのだ。
校長の威厳を取り繕わなければならない。
「グレンさん。あなたも家に戻られてはどうですかな?」
ジェイソンはグレンを気遣う素振りを見せる。
「いえ。お心づかいありがとうございます。ですが、家に居ても仕事にならないと思いますので……」
今度は騎士中学の校長である、ギルティに視線を向ける。
彼の心中も穏やかではないはずだ。
何しろ魔法中学校と騎士中学校の合同課外授業で事件は起きたのである。
彼は流石に学校に帰れないだろう。
ジェイソンは一人になるのを諦める。
現状、特に何もする事がないので色々考える事にする。
一番に考え付くのは責任問題であろう。
課外授業中に起きた生徒六人の失踪事件。
前代未聞の大事件である。解決したとしても誰かが責任を取らねばなるまい。
となれば必然的に校長であるジェイソンとギルティの二人の責任が問われる事は間違いない。
そこへギルド職員が食事を運んできた。
ギルドマスターが気を利かせてくれたようだ。
ジェイソンは昨日の夜から何も食べていなかったので非常にありがたいと思った。
この部屋に残る三人共にギルド職員にお礼を言って食事にありついた。
それから時間が経過して、夕方になった。
その時、昨日訪れなかった最後の大物がこの部屋を訪ねてきた。
ベネディクトの父親である、クライヴ・フォン・マッカーシー侯爵である。
彼は二人のお供を伴って部屋に入ってきた。
「ご苦労である。現在、どのような状況であるかご説明願いたい」
ジェイソンとギルティは慌てて立ち上がり頭を下げている。
グレンは誰だかよく解っていないようだ。ポカンとしている。
ジェイソンは代表して今までの経緯を説明した。
「なるほど……実は午前中に、家に差し出し不明の書簡が届いてな。息子を誘拐したので身代金を払えと要求してきおった」
「ゆ、誘拐ですとッ!? ちなみにいかほど……」
「あちらは生徒六人を預かっていると言っておる。全員分で白金貨50枚だ」
「「「ごッ!?」」」
三人の声がハモった。
「うむ。とてもじゃないが一貴族に支払える額ではない……ヤツ等、本当に交渉する気があるのか? ゼルト子爵とビターマイン子爵、それから国王にもこの事はお知らせしてある。とりあえず今は伝手を頼って金をかき集めている」
「支払いはどのように?」
「支払日と場所はまた後日伝えると書いてあった。しかしヤツ等……内部事情に詳しい者が関与しているのかも知れんな。誘拐の手際と言い、たまたま王都の邸宅へ来ていた私に書簡を送った点と言い」
「な、内部に犯人がッ!?」
ジェイソンとギルティが顔を青くしている。
「き、貴族様、私は誘拐された生徒の父親です。私もお金をできるだけ用意致しますッ! 何卒! 何卒! 息子をお救いくださいッ!」
グレンがマッカーシー卿に頭を下げてお願いする。
「頭を上げてください。もちろん六人共救い出して見せます。自領から兵は率いてきておりませんが、王都の邸宅にいる兵は全てメルディナに送りました。メルディナにいないなら次の都市です。もちろん人質の安全を最優先に行動します」
グレンはそれを聞いて「こうしちゃいられない」とギルドを後にした。
マッカーシーはグレンが金策のために帰ったのだと予想がついていた。金策と言っても所詮は平民である。ほとんど足しにはならないだろう。しかし、彼はグレンの気持ちが痛いほど解ったし、何かをしている方が気がまぎれるだろうとの思いからグレンを止める事はしなかった。
「それでは私も失礼する」
マッカーシー卿はお供のうち一人をこの場に残すと何かあったら知らせるよう申し付けて帰っていった。
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