「城塞や神殿との連絡を確保したい」
翌朝、開口一番、デボラがそう言った。
「この状況で連絡を回復する事に意味はあるのか?」
オットマーが彼女の言葉に疑問を投げかける。
「城塞や神殿内部にアンデッド使いがいるかも知れない。それを知らせる必要がある」
「敵にアンデッド使いがいるなら、連絡を回復されるのは嫌でしょう。要所に上位アンデッドがいるかも知れませんね」
エミールがデボラの意見に賛同する。
「では我々が城塞の中枢に行きましょう」
フェリクスが立候補すると、エミールも加わるようだ。
その後、しっかり班決めされ、レヴィンは神殿方面へ向かう事となった。
ギルマスのデボラも今回は出るようだ。
レヴィン達と一緒に神殿方面へ向かう事になった。
三組の冒険者が冒険者ギルドの防衛にあたる。
外に出ると、相変わらずの風景が目に入ってくる。
アンデッドの大群である。
剣と魔法で次々と敵を葬りながら、レヴィンはデボラに尋ねる。
「もうずっと神殿とは連絡が取れていないんですよね? 既に落ちているなんてことはないですか?」
「あそこには神聖魔法の使い手が多くいる。そう簡単には落ちるまいよ」
デボラは微塵も心配していないようだ。
「それにしても、戦力が少なすぎます。増援は期待できないんでしょうか?」
「国が本部に圧力をかけているそうだが、何故か動きは鈍いらしい。だからこそ貴殿らアウステリア王国の冒険者に頼る事態になっているのさ」
会話しながら進んでいくと、見覚えのある不死の紳士アドリアンが立ちふさがっているのが見えた。
周囲には風格のある、これまた紳士風の男と、騎士風の男が佇んでいる。
ダライアスが蒼天の剣を抜き、騎士風の男に斬りかかる。
その直前にレヴィンが魔法を叩き込んだ。
「神霊烈閃」
三人の敵は、一斉に散開すると、魔法は虚しく虚空を貫いた。
その時、デボラが疾走する。
「ルーンブレード」
デボラの剣が光り輝いたかと思うと、彼女はアドリアンと紳士風の男の脇を駆け抜ける。
その瞬間、その二人は体を真っ二つに両断されていた。
そして、その体は黒い塵となり、断末魔の悲鳴を上げることもできず消滅した。
(ギルマス、強すぎぃ!)
何度も倒しきれなかったアドリアンを一撃で葬り去る腕前にレヴィンは驚愕した。
ダライアスも苦戦しながらも様になってきた剣撃で騎士風の男を斬り飛ばし、その体を塵に変えていた。
彼も強くなったものである。
驚いたレヴィンがデボラに質問する。
「ギルマス、職業は何なんですか?」
「私は聖騎士さね。『南斗旅団』を壊滅させた英雄さん」
「知ってたんですか!?」
「その程度の情報も知らなくてギルマスは勤まらないよッ!」
流石は年の功と言ったところか。
「む。何か失礼な事を考えてないかい?」
心の内を読まれて焦りながらレヴィンは答える。
「そ、そんな事はないですよ?」
その内に神殿の門の前に辿り着く。
門は開け放たれていた。
不審に思いながらも門をくぐると、本殿へ通じる扉までもが開け放たれている。
そして、目の前には巨体の怪物。
髪は短く大きな目玉でギョロりとレヴィン達をねめつけている。
ボロ着れをまとい、体や顔にはツギハギのような大きい縫い目が見える。
「カヴァルイーツ……グール系の怪物さね……。ランクはS……」
「なッ!?」
Sランクの魔物を前にレヴィンやダライアス、他の冒険者から驚愕の声が上がる。
「戦わない訳にはいかなさそうだな……」
ダライアスのつぶやきは皆の耳に届いただろうか。
レヴィンが腰に佩いていたヴァルガンダスを抜き放つ。
「神霊烈攻」
レヴィンの開幕を告げる魔法陣が展開される。
カヴァルイーツは避ける素振りも見せない。
「ホーリーブレード」
デボラが聖剣技を発動し、斬りかかった。
流石にこれは受ける気はないのか、見た目よりも軽快な動きでその一撃をかわすと、デボラに殴りかかる。
剣と拳の応酬が始まった。
両者一歩も引かずに避け続けている。
他の冒険者が攻撃をする暇さえない。
デボラが巧みな剣撃でカヴァルイーツを誘導し、本殿の入り口から遠ざける。
彼女の意図を理解したレヴィンは、ここは彼女に任せて先に行くべきだとダッシュをかける。
他の冒険者達も遅れてレヴィンに続いた。
本殿内に入ると、そこには衝撃の光景が広がっていた。
神官や騎士らしき者達が地面に倒れ伏していたのだ。
祭壇付近には、大きな鎌を両手に携えた骸がマントをまとって佇んでいた。
「グ、大鎌の死神……」
誰かのつぶやきがレヴィンの耳に届いた。
「援軍かッ!」
そう叫んだのは、大鎌の死神を取り囲むようにして対峙していた騎士らしき男。
他に立っていたのは、青色の法衣をまとった女性と、重厚な鎧を装備した騎士風の女性だった。
新しい生贄を見つけた大鎌の死神はフワリと浮き上がると、冒険者の男の前に降り立つと、左手を前に出してポツリとつぶやいた。
「死の収穫」
すると、その男の体から霊体のような、人魂のようなものが発現したかと思うと、大鎌の死神はその鎌で肉体とつながっていた霊体を刈り取った。
ドサリと崩れ落ちる男。
それと同時に動くレヴィン。
「神霊烈閃」
魔霊界からダメージを与える光線は大鎌の死神を直撃する。
キィイイイイイイイと言う声なのか音なのか解らない何かが響く。
「ダライアスッ!」
おそらく切り札はダライアスの持つ蒼天の剣だろう。
そう判断したレヴィンはダライアスとともに大鎌の死神に突っ込む。
大鎌の死神は、二人の剣撃を軽く受け流す。
「神光輝撃」
女性の声が朗々と響くと大鎌の死神を中心に光が発現し、半円状に広がっていく。
一瞬、巻き込まれるかと思ったが、その光に触れても人体に影響はないようだ。
さしたる痛痒も与えていないように見えたが、目くらまし程度にはなったのかも知れない。
レヴィンとダライアスの一撃がまともに入る。
キィイイイイイイイイイイイイイ
耳をつんざく悲鳴のような何かに脳みそが震える。
レヴィンの一撃は左腕の骨を叩き折り、ダライアスの一撃はその鎌ごと体を両断する。
切り口が塵のようになっていくが、さらに追撃をかけるダライアス。
横薙ぎの剣を喰らって、大鎌の死神は黒い塵となり、消えた。
(やっぱ、この剣とんでもねーな)
滅びて行く様子を目を見開いて凝視する神官らの姿がそこにはあった。
「おい、その剣とんでもねぇなッ! まさか倒せるなんて思わなかったぜ」
男がダライアスに声をかけてきた。
「俺はライルってんだ。神官騎士だ」
レヴィン達も名乗り返すと、女性二人も自己紹介してきた。
青い法衣の女性は、神官でアンヌと言い、もう一人の女性は神官騎士でシャルロットと言うそうだ。
ダライアスの剣を褒めそやす、神官騎士達にレヴィンは嫉妬を覚えた。
と同時に痛感する。今の魔法程度ではSランクの魔物には歯が立たないという現実を。
その焦躁が大きくなり、それを押さえようと一人苦心していると、冒険者のダダックがデボラの加勢に向かおうと提案する。
「そうだッ! 外にカヴァルイーツが出て行ったんだ」
「そっちはギルマスのデボラが抑えてるよ」
ライルの言葉に状況を教えるダライアス。
六人は本殿から出て本殿前広場で今もなお戦い続けているデボラを目撃する。
こちらも一進一退の攻防が繰り広げられている。
デボラはこちらをチラリと横目で確認すると大きく間合いを取って近づいて来る。
「中はどうだったのさ」
「中には大鎌の死神がいたが何とか倒した」
「俺達以外の神殿関係者は皆やられちまった」
デボラの言葉にダライアスとライルが回答する。
「大鎌の死神を倒したのかい!?」
彼女は驚きの声を上げる。
やはりあの魔物もSランクだったのだろう。
こちらをうかがっていたカヴァルイーツだったが、形勢は不利と判断したのか、大きく飛び退るとどこかへと消えて行った。
「ここはもう落ちたも同然だ。全員で城塞と城壁の連絡を回復させるよッ!」
デボラの提案に皆が賛同し、城塞に向かったフェリクス達と合流するために行動を開始する。
その前にレヴィンは神官に職業変更し、全員に回復魔法をかける。
夜にでも抜け出して神聖魔法の本を読み漁っちゃると決めたのだ。
レヴィンは今回の件では、裏方に徹しようとの考えに至った。
実力不足を実感したせいなのだが、彼の前には大きな壁が立ちふさがっていた。
魔法は装備で何とかなるものではない。
職業レベルを上げるだけでは駄目なのだ。
魔法の知識を手に入れる必要があるし、魔力自体の底上げを図る必要がある。
特に魔導書の入手は強くなるための必須条件であった。
ヴァルガンダスもそこそこの剣ではあるのだが、伝説級であろう、蒼天の剣をダライアスに譲ってしまった今、魔法の知識を片っ端から吸収していかねばならない。
(とりあえず『大魔法』の魔導書を手に入れる。そして魔人となり、『闇魔法』、『二重魔法』、『三重魔法』の能力を手に入れなければならない)
レヴィンは臥薪嘗胆を心に強く誓った。
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