いよいよ、集合の時間なる頃である。
レヴィンは、早めに隠し部屋のある路地の所まで来ていた。
すると、暗闇の中、声がかけられる。
声の調子からクィンシーではないようだ。
「よう、早いな。お前、名前は?」
「レヴィンです。クィンシーの紹介で来ました」
本当は名前を名乗りたくはないのだが、教団に近づけたのはアマンダのお陰なので偽名を使うと怪しまれると思っているレヴィンである。
「おお、聞いているぞ。これを被りな」
そう言って、覆面のような、目出し帽のようなものを手渡された。
レヴィンの勝手なイメージとしては秘密結社が被っている、目の位置に穴が開いている覆面三角帽子だ。
「俺は、ドノバン。実行部隊は五人で、指揮はケルン様が取られる。と言っても警備もザルだし簡単に終わるだろうがな。あ、腕章はとっておけよ?」
そこへ、新たに三人が加わった。
黒い幌馬車は、闇と同化して見えずらくなっている。
「よし。全員いるな。乗り込め、邸宅の裏まで行って待機だ」
点呼をして出発の命令を出したのが、おそらくケルンだろう。
素早い動きで全員が幌馬車に乗り込むと、クィンシーが話しかけてきた。
「どうだ。初めては、緊張するだろ?」
そう聞かれたが、この歳で結構な修羅場をくぐっているレヴィンはそこまで緊張はしていなかった。
むしろ、正体がバレる方が心配なのである。
「そうだな。でもお前の後に着いていけばいいんだろ?」
「まぁそうだ。深夜零時に警備主任の手引きで侵入し、速やかに二階の娘の部屋まで行く。後は眠っているところをオレソン薬を嗅がせて、さらなる深い眠りに落として回収するって訳だ」
オレソン薬ならレヴィンも知っている。
家でも扱っている薬で、麻酔薬のようなものだ。
それを水に溶かして投与するか、布に匂いを染み込ませて嗅がせるかすれば、対象は意識を失うことになる。
もちろん、投与するより、嗅がせる方が効果は薄いし、体にも悪くない。
クローディアに過剰な薬が使われない事にホッとするレヴィン。
幌馬車のガラガラという音は、普段なら気にならない程度の音だが、深夜だと結構響いて気になってしまう。
それだけ、辺りは静まり返っていた。
幌馬車の中でじっと到着を待っていると、それを緊張と取ったのか、クィンシーが声をかけてきた。
ガラガラ音がうるさいせいで、よく聞こえない。
二、三、言葉を交わすと、彼もその口を閉じた。
どれくらい時間が経過しただろうか。
幌馬車が停まり、周囲を静けさが支配する。
計画通りなら、今、キッドマン邸の裏門付近に停車しているはずである。
遠くから喧騒に乗って、鐘の音が聞こえてくる。
午前零時の鐘だ。ケルンの合図で速やかに幌馬車から降りると、裏門を少し開いて通過する。
裏門の傍に警備詰所があると聞いていた通り、一画に小屋のようなものが建っている。
中からは、灯りはもれているが、ひっそりとしている。
そんな詰所の横を難なく通りすぎ、邸宅へ侵入する。
そして五人は、邸宅中央のホールを通り、足を忍ばせて二階へと進む。
石造りなので音はほとんどしない。
木でできていたらギシギシいっていただろうが、この階段は防犯の仕事はしなかったようだ。
階段を上りきると廊下がまっすぐ続いており、左右に部屋がいくつも並んでいたが、先頭を行くケルンは一切迷わない。
速やかに目的の部屋の前までくると、一斉に目当ての部屋へと侵入した。
中も暗かったので、闇に慣れた目でベッドをすぐさま見つけると、布団を剥ぎ取って、オレソン薬を染み込ませた布を少女の口に当てる。抑え込んだ時は、ジタバタしていたが、それが静かになると彼女を麻の袋に入れ、担いで侵入経路を逆に戻って行く。
使用人が起きてくる気配はない。
こうして、あっさりと少女を拉致することに成功した。
悪意ある者が明確な意志を持って拉致を行うのは、こんなにもあっさりと済んでしまうのかと驚きを隠せないレヴィン。
防犯の必要性を、まざまざと見せつけられてしまった。
レヴィンはクロエとリリスの事を思い起こしながらため息をついた。
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