散策から戻って部屋でくつろいでいると、使用人が夕食の刻(とき)を告げに来た。
フレンダの家族と一緒の食事だ。訳もなく少し緊張してしまうレヴィン。
使用人について歩いていると、途中でウォルターが合流する。
ドキドキしながら食事の場に顔を出すと、席に案内され、椅子を引いて座るように促される。
ウォルターはレヴィンの後ろに控えているようだ。「一緒に食べないの?」と聞いてみたら、執事は普通、一緒には食べませんと言われた。
確かに彼の席は用意されていないようである。
結構、長いテーブルである。続々とフレンダの家族らしき人達が部屋に入ってくる。
フレンダは既に席に着いていた。後から入ってきたのは、男性が三人と女性が一人、少女が一人だ。
誕生席のような場所、つまり一番奥の席は当主なのだろう、年配の男性――デイヴ・フォン・ドルトムットと言う――が座った。
レヴィンは当主の正面の席に座っている。下座っぽいが軽くあしらわれているのか、これが普通なのか解らないため、何も言わない。
「ナミディア卿、今日はよく参られた。大したものも出せないが、食事を楽しんで欲しい」
「本日は、お招き頂き、ありがとうございます」
「本当に来て頂けて嬉しいですわ。この街を満喫して行ってくださいね」
「はい。ドルトムット夫人。素晴らしく、美しい町並みに感動していたところです」
「まぁ、それはよかったわ。ゆっくりしていってくださいね」
嬉しそうにドルトムット卿の右隣りに座っている女性が微笑んでみせる。
「ナミディア卿、領地経営の方は上手くいっているのかね?」
「政務の途中で厄介事に巻き込まれまして……。未だ手さぐり状態で進めております。ドルトムットの視察を、是非参考にさせて頂きたいと思っております」
「マルムス教の件か……。大変だったようだな。この街の事は、まぁ、なんでも聞いてくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
ドルトムット卿は普通に対応してくれているように感じる。
しかし、ここで、不穏な発言をする男が現れる。
「しかし、フレンダにもようやく良い男が見つかりましたか。不吉な職業を持つ身ですから贅沢は言えませんね」
「……」
場が沈黙する。フレンダの魔女という職業の事を言っているらしい。
さらにレヴィン自身もディスられたような気がする。
誰もフォローする気はないようだ。夫人でさえ、沈黙している。
「ナミディア卿と言いましたか。フレンダのどこが良かったのですか? この呪われた娘のどこが?」
露骨に顔をしかめながら、尋ねてくる若い男――マイセンと言う――にフレンダが言葉を返す。
「お兄様、失礼ではありませんか! レヴィン様は、わたくしとはなんでもございません!」
「ひょっとして魔女という職業の事を言っていらっしゃるので? 魔女の優れた能力を理解してらっしゃいますか?」
とりあえず、魔女に関して誤解しているようなので釘を刺しておく。
「優れた能力だと!? そいつが生まれてからドルトムットは不幸が続いているんでね。能力云々の話ではないッ!」
「マイセンよ。言葉を慎め。お前は何様なんだ。ナミディア卿は貴族なんだぞ?」
なんだかスッキリしない説教のような気がするのは気のせいだろうか?
「それは失礼しました。しかし、フレンダの事は譲れませんね。住民だって迷惑しているではありませんか? 父上もご存じでしょう?」
マイセンは、心外と言った顔をして言を続ける。
反省のはの字もない。
「身内の恥をこれ以上、晒すな。みっともないだろう」
「そうですよ、兄上。姉上は天に祝福されなかっただけです。触れないであげるのが吉ですよ」
「そうは言うがな、セグウェイ。魔女は、飢饉や疫病までもたらすと言うではないか。ロマーノが今、伏せっているのもフレンダのせいなのだぞ?」
セグウェイと呼ばれた優男風の青年も辛辣な言葉をフレンダに何の遠慮もなくのたまっている。
「久しぶりに全員が揃ったのだ。不吉な話はもう寄せ。ところでナミディア卿、明日はどこに視察に行かれますかな?」
ドルトムット卿が、この話はもうお終いと言う感じで話題を変える。
「……そうですね。港湾の方が見てみたいです。巨大船や軍船、漁船も見てみたいと思っています」
部外者のレヴィンがこれ以上、フレンダのフォローしても火に油を注ぐようなものだ。
それなら話題を変えた方がいいと判断するレヴィン。
「それは良い。我が領はナーガ海の恵みを一身に受けているからな。船とは切っても切り離せないものだ」
「町並みの方もご覧頂けたかしら? ドルトムットは水の都と呼ばれておりますのよ?」
「高台と馬車の中から、拝見しましたが、とても美しい都市だと感じました」
街はな、とレヴィンは心の中で毒づいておいた。
「ふふふ。ありがとう、ナミディア卿。今日の夕食も海産物がふんだんに使われておる。味を楽しんで欲しい」
あー刺身が食べたいと思いながら、白身魚のムニエルにえいッとフォークを突き立てる。
まぁ、料理に罪はないので、美味しく頂くけれども。
結局、領地経営の点で言えば有意義な話が出来たようだが、不快感の残る晩餐となったのであった。
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