魔神、ローズマダーとの死闘を制したレヴィン達は、王都へ戻り、サーザイトと合流した。
王都の秘密部屋の中には、五名ほどの信者がたむろしていたらしい。油断しきっていたようで、まったくの無抵抗だったそうだ。幹部がいた訳でもなく、彼等から聞き出せる情報はおそらく少ないだろう。全員捕えて、監獄にぶち込んであるとのことだ。
サーザイトは、その後、出兵の準備をして待機していた、騎士達の道案内をして信者の村に移動し、洞窟で縛り上げられている信者を捕えて回ったのであった。ちなみに、この騎士達は、マッカーシー卿が根回しした者達で、ゴルードリッチ卿の手の者とラウルス王太子お抱えの騎士団から構成されていた。
マルムス教団壊滅の功を分け合おうとしたのだろう。王太子夫人は、ゴルードリッチ卿の娘であるという繋がりも見える。
教団幹部を壊滅させた後、教団の活動は目に見えて縮小した。指導者層がごっそりいなくなってしまったのだ。当然と言えよう。
後に残るは、無力な一般信者のみである。右往左往する彼等の姿が集会所周辺で見られたとか。
レヴィンは、登城して、今回の顛末を報告書にまとめて提出し、マッカーシー卿にも根回しを頼んだ。
それから三日経って、レヴィンの自宅に、王城への召喚状が届いた。
内容は、王都のマルムス教団壊滅の論功行賞である。
レヴィンとカゲユ、クローディアにシェリル、さらには冒険者ギルドマスターのランゴバルトまで召喚された。
後は、ゴルードリッチ卿とラウルス王太子も論功の対象となっていた。
謁見の間にかしずくは、レヴィンを筆頭にカゲユ、クローディア、シェリル、ランゴバルトだ。
国王である、オーガスタスⅢ世は、終始ご機嫌であった。
玉座につくや否や、レヴィンを賞賛した
「レヴィン男爵よ! 余との約束を見事に果たしてくれたようじゃの! そなたの活躍は、宰相のバルキュラス卿と、冒険者ギルドのランゴバルトから聞いておる。あの使えぬ対策委員会を率いてよくぞ教団を壊滅に導いたものよッ! それにしても悪魔神を崇拝しておったなど、言語道断であるッ! あのシ・ナーガ帝國と同じ目にあいかねんかったと思うとゾッとするわッ! これからマルムス教は異端とし、信仰の自由の対象に含めない事とするッ!」
「陛下、しかも実際に悪魔神が降臨したとの事……。これを倒した彼等は最早、勇者と呼ぶに相応しき者であります。何卒、相応の褒美をッ!」
バルキュラス卿が進言する。悪魔神を倒したとすれば、それは人類の危機をも救った事に他ならない。
「ふむう。レヴィン男爵はたて続けに大功を上げておる。相応しい褒美が思いつかぬ」
「陛下、ここはレヴィン殿の希望を聞いてみてはいかがでしょうか?」
「おおッ! それはよいッ! レヴィン男爵、そなたが望むものを何なりと申してみよッ!」
「はッ! 有り難きお言葉、恐悦至極に存じます。私は、このような事が再び起きた時のためにまだまだ強くなる必要性を痛切に感じております。よって不肖レヴィン、王国内の魔導書などの全書籍に関する閲覧権を所望いたしまする!」
「閲覧権だとッ!? そのようなもので良いのか?」
思ってもみなかったものを所望され、動揺しているのだろう。
オーガスタスⅢ世は、宰相のバルキュラス子爵をチラリと見るが、バルキュラス卿も何やら考え込んでいる。
しかし、レヴィンにとっての援護は別のところからやってきた。ゴルードリッチ卿である。
「まっこと、殊勝な心がけ、彼の者こそ、貴族の鑑を言えましょう! 陛下ッ! 私は閲覧権を与える事に賛成致しますぞッ!」
それを聞いた、有象無象の貴族達も口々に賛成の言葉を叫び出す。
「よしッ! では、よきにはからえッ! レヴィン男爵が望む王国内、全ての魔導書を含む書籍の閲覧権を与えるッ!」
「はッ! ありがたき幸せッ!」
顔を伏したまま、口元にニヤリと笑みを浮かべるレヴィン。
この時のレヴィンはとても邪悪な顔をしていたに違いなかった。
魔神、ローズマダーを倒した、カゲユ、クローディア、シェリルは、白金貨と褒美の宝剣を褒美に与えられ、ランゴバルトも無能な委員会に代わりレヴィンに全面的に協力して、教団を壊滅に導いた功績で白金貨が下賜された。
「しかし、我が息子、ラウルスよ。お主も協力しておったとは、余は嬉しいぞッ!」
「はッ! 国王陛下のご心痛、察するにあまりあり、いても立ってもおられず我が騎士団を投入したまでであります」
王太子と言っても下に優秀な第二王子、第三王子がおり、後継者として不安を拭いきれなかったラウルスであったが、今回の件で大きくポイントを稼いだと言えよう。
これで王太子の地位はかなり盤石な物となったに違いかった。
「ゴルードリッチ卿も補佐してくれたそうじゃな。ありがたい。礼を言わせてもらうぞ。褒美は……そうじゃな……」
オーガスタスⅢ世は、しばし考える様子を見せた後、言った。
「そなたを新たに兵部卿に任命しよう。軍務の取りまとめを頼むぞッ!」
「はッ! 大任なれど、我が誇りにかけて勤め上げて御覧に入れまするッ!」
論功行賞も終わり、レヴィンは、早速、王城の蔵書室に行こうとしていた。
それをマッカーシー卿が呼びとめる。
「レヴィン殿、ご苦労だったな」
「クライヴ様、今回も根回しなど頼んでしまって申し訳ございません。助かりました」
「いや、そんな事は問題ない。今回も災難だったな」
「そうですね……まさか、悪魔崇拝の教団に潜入するとは思ってもみませんでした。それに魔神ですよ? 死ぬかと思いました」
「よくぞ倒したものだ。人間にとって大敵だからな。そんな苦労したのに、褒美があれでよかったのかね?」
「もちろんです。王城だけでなく、貴族の蔵書も閲覧できるのですよ? 魔導書を読み漁って、今後、魔神と戦う機会があったらもっと楽勝で勝ってみせますよ」
「それは頼もしいな。ところで、開拓団だが、第五次先遣隊までの手配が完了した。それで久しぶりに領都に帰ろうかと思ってな」
「それは……ありがとうございます! 僕のせいでずっと帰郷できなかったんですよね? 本当にご迷惑ばかりかけて申し訳なく存じます」
レヴィンは、深く頭を下げてお礼を言った。
「君を貴族にしたのは私だからな。気にする事はないよ。マッカスにはベネディクトとクラリスも連れて帰るつもりだ」
「どうかゆっくりなさってください。内政がなければ、ベネディクト達と魔物狩りに行けるんですが……」
「ふふ……。君は本当に自分磨きに余念がないな」
「もちろんです。目指すは世界最強ですから」
「大きく出たな」
顔を見合わせて笑う二人。廊下を行く者から怪訝な視線を向けられる。
「ではな。近い内に出発するから何かあったら早めに言って欲しい」
「解りました。ありがとうございます」
そう言うとマッカーシー卿は去って行った。
レヴィンは、王城の蔵書室に行って、しばしの愉悦を味わった。
王城を後にしたレヴィンは、次に冒険者ギルドへと向かった。
すでに夕刻に差し掛かっていたので、カゲユ達はいないだろうが、ランゴバルトだけにでもお礼を言っておこうと思ったのだ。
まぁ、王城でもお礼は言ったのだが、改めてこちらから出向くという事も必要な事であろう。
ギルドマスターの部屋に通してもらうと、話しかけてきたのはノンナであった。
「あら、英雄さんが何の御用かしら?」
「ども。ランゴバルトさんにお礼を言おうかと……」
それを聞いて素っ頓狂な声を上げるランゴバルト。
「礼!? 俺に一体、なんのお礼だよ」
「ええ……。今回の件でお世話になったので、今度、皆さんで食事会でもどうかと……」
「へぇ、殊勝な心がけじゃねぇか。お前も律儀だな」
「では、改めて、誘いに伺いますね。お忙しいとは思いますが、よろしくです」
「これだけ手伝わせておいて食事だけなの? 随分人使いが荒いものね」
「まぁ、国から褒賞が出たんだから勘弁してくださいよ……。というかノンナさん、食事会に来る気なんですか?」
「え、ちょ、ちょっと、私だってね……色々手伝ったんだからッ!」
「え、でも王城に召喚されませんでしたよね?」
「な、何よッ! わ、私だってねぇ……」
なんだろう。精霊族は皆、打たれ弱いのがデフォなんだろうか?
なんか、ふぇぇってなってるので冗談はこの位にしておこう。
「冗談ですよ。ノンナさんも一緒に行きましょう」
「な、冗談はやめてよねッ! でもそこまで言うなら行ってあげない事もないわ!」
そこまでってどこまでだろう。
ノンナも結構チョロイなと思うレヴィンであった。
まぁいいかと納得して、ギルドマスターの部屋を辞去した。
冒険者ギルドから自宅に帰宅した後、自宅前でレヴィンは思いがけない人物の顔を見かけたような気がした。
気になって、彼の顔を探すレヴィン。人ごみをかき分けて見かけた方向へ向かう。
また、あの顔が目に入る。その後ろ姿は、裏路地へと消えて行った。
見失わないように、レヴィンは、後を追って裏路地に入る。
そして、その影はさらに細い路地を曲がって消えた。
慌てて追うレヴィン。
すると、そこには、クィンシーの姿があったのである。
壁に寄りかかって、腕組みをしながらレヴィンの方を見ている。
「よう。レヴィン。お前は王国の手の者だったんだな」
「クィンシー……。無事だったのか。俺を恨んでいるんだろうな」
「そうだな。始めは恨んだよ。でもな……」
そう言うと、ニヤリと口元に笑みを浮かべるクィンシー。
「幹部連中がごっそりいなくなったお陰で、俺にもチャンスが回ってきた。お前のお陰で予定より早く成り上がれそうだよ」
転んでもただでは起きないクィンシーであった。
レヴィンは、逞しい男だと思う一方、強敵になって現れないでくれよと心の中で考えていた。
「じゃあな。縁があったらまた会おうぜ」
クィンシーは、そう言って路地の奥へと姿を消したのであった。
その姿をレヴィンは複雑な思いで見送った。
こうして、レヴィンに日常が戻ってきたのである。
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