コルチェでは、カルマまでの手頃な依頼はなかった。
しかし、冒険者自体が少なくなっていたため受けられずに放置されていた依頼を、カルマまでという条件付きで引き受けることにした。こちらの条件を飲んでもらった形だ。任務はお茶の輸送の依頼であった。
どうやらコルチェやエクスはお茶の産地らしい。
季節ごとに茶葉を摘み取って加工し、出荷しているようだ。
コルチェ以北は治安が悪かった。
どうなる事かと少し心配であったが、野盗の襲撃はなかった。
その理由が『南斗旅団』を壊滅させた冒険者として顔と名前が売れたためであったのはレヴィン達は知る由もなかった。
ポロロ村では、村長が暖かく迎えてくれた。
食糧は国が動いて周辺国家から集めているところだと聞いている。
間もなく、ポロロ村にも食糧支援がなされるだろうと伝えておいた。
村で一泊し、何事もなく出発する。
村長や村人からはまたいつでも来てくれと何度も言われた。
感謝されているようだ。
後ろ髪を引かれながらも村を後にした一行は、順調に旅を進めていた。
アウステリア王国とエクス公国の間の空白地帯に入ると、豚人の集団が襲ってきた。
見晴らしの良い、開けた場所なので、遠くから魔法で殲滅してもよかったのだが、ベネディクト達に経験を積ませるために近接戦闘を行う。それにしても黒魔法があれば、かなり優位に戦いを進めることができる。これは対野盗戦でも感じた事だ。
近づけさえしなければ範囲魔法で片をつける事ができる。
もちろん、魔法を派手に使えない場所では一体ずつ片づけるしかないのではあるが。
しかし、戦争であればどうだ?
学校に黒魔導士が多い理由も考える。魔法中学で一番多い職業は黒魔導士だった。
あの数の黒魔導士が戦争に加われば、少数で大多数の敵を殲滅する事ができるだろう。
そんな考えをイザークに話すと、「お前基準で考えるな」と言われた。
言われてみれば、魔法陣を上手く描く事のできない者も多かったように思う。
魔法中学の黒魔導士の中でも、無双できるようなレベルの魔導士は少数であるのかも知れない。
そんな事を考えているうちに戦闘は終了したようだ。
ダライアス達前衛が敵を引きつけて倒し、アリシアが味方を強化するか、敵を弱体化させ、もしくは攻撃魔法で攻撃する。
そして、レヴィンが黒魔法で敵を仕留めていく。味方が傷つけばシーンが回復魔法を使う。
連携はうまく機能しているようだ。
ちなみに、今回の戦闘も色々考えながらも、しっかり援護していたレヴィンである。
魔石を回収しながら、ふと思ったが、この辺りは人の手があまり入っていない。
小鬼や豚人、鬼の集落がどこかにあるのかも知れない。
そう思うと、冒険者魂がうずいてくる。
魔の森で魔物を倒すだけではなく、未踏の地を探検する事も冒険なのに何故それをしないのだろうと思うレヴィンであった。
その後も、小鬼、豚人、鬼の混成部隊とも遭遇し、戦闘になった。
レヴィンは、こいつら種族が違うのによく一緒に出てくるなと思った。
まぁ協力と言うより、強い鬼がその他を支配しているのだろう。
ダライアスが鬼とやりあっている。
鬼は破壊力のある一撃を繰り出してくる怖い存在の敵であるが、大振りが目立つので、気をつけていれば今のダライアスなら倒せるだろう。ヴァイスも同様だ。しかし、まだまだ危なっかしいところがあるので、確実ではない。
ベネディクトはもう少し前衛の経験が必要なようである。豚人と斬り合いを演じている。
レヴィンは全体を見て、フォローが必要なところへ攻撃魔法を叩き込んでいく。
魔物は種族を越えて連携してくる事が多い。
正確には、先程も考えていたように支配して使役しているとも言える。
人間はどうなのだろうか?
アウステリア王国では人間以外の種族を見る事はほとんどないと言っていい。
まだ、王国内では王都ヴィエナ、メルディナ、カルマしか行った事のないレヴィンであったが、例えば獣人を見たのはウェイトレスと奴隷だけである。
学校で王国が敵視政策を行っていると習った事はない。しかし、歓迎もしていないのかも知れない。
エクス公国では獣人を何度か見かける事があった。やはり国柄なのであろうか。
レヴィンが小学校時代に授業で教わった種族は、小鬼族、豚人族、鬼族、鬼人族、蜥蜴人族、小人族、巨人族、魔族、有翼族、竜人族、竜族、土精霊族、闇精霊族、古精霊族、精霊族くらいである。
ちなみに獣人はひとくくりにされていた。彼が見た事があるのは、狼人族、狐人族、猫人族くらいだろうか。彼等をまとめて獣人族と習ったのである。
彼は、どうせなら、種族を超えて仲良くできればいいなと思っている。
何を言っても耳を貸さない豚人族のような種族もいるのだろうけれども。
彼は以前、叩き潰した豚人達を思い出していた。
最後の鬼にトドメを刺すと、残っていた小鬼達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
鬼の角と皮、魔石などを回収すると、旅を再開する。
もうすぐカルマである。
ゆっくりできる日も近そうだ。レヴィンは真っ青に染まった空を見上げながらそう思った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!