昨日は、ちょっとはしゃぎ過ぎたかも知れない。
迷宮作成で、オスカルとほとんど一日中一緒に過ごしたレヴィンである。
四日目の今日は、昨日、少ししか出来なかった調整作業だ。
昨日の報告をどんどん聞いていく。
ナミディア周辺は、おそらく温帯に属している。
地図から読み取るに、緯度は王都ヴィエナより少し低いと思われる。
王都はレヴィンが経験した限りでは、だいたい前世の日本と同じような気候のように思えた。
なんとか領内で、米を作りたいレヴィンは、エクス公国で見つけたマイタイマイという亀の獣の捕獲をエクス公国の冒険者ギルドに依頼すべく、使者を出すのであった。
マイタイマイは主に肉が食べられているようだが、その背中には稲穂のようなものが実る事はレヴィンが資料にて確認済みである。
今の季節なら、もしかしたら苗の状態で確保できるかも知れない。レヴィンは最優先事項として、このプロジェクトを進めるために動き出した。
開墾作業の方は順調のようである。木がある場所は、木を伐採し、牛型の獣であるヌウを使って切株などを引っこ抜いていく。平地の草木が生い茂っている場所は、雑草をとって土を耕す作業を行っている。
同時に将来的に田んぼにする予定の場所には、水を引けるように灌漑の作業も並行して進めていく。無計画に切り開くのではなく、どの土地をどう活用するか、全て決定してから作業を行うので同時進行で色々なことができるのだ。
治水の方は、現在堤防造りの縄張りを決めているところだ。簡単な地質調査から、過去に川の氾濫のあった場所は、だいたい把握できた。川の流れ自体を変えることも考えたが、あまりにも大規模な工事になるため見送った。堤防のために土が大量に必要だが、領都を囲む水掘を造る際に出る土を当てる予定である。堀は魔法で造る事も考えたが、魔法で掘った土がどこへ行くのか不明なため、この案は却下した。魔法で穴を造ると土が消えてしまうのだ。
実験農場も造っている。用意した畑に、魔石を利用して作物を育ててみるのである。レヴィンはこれに魔石型魔法陣農法と名付けた。まずはカルマで買い付けた、低ランクの魔石を使用する。
神聖魔法に大地を祝福する魔法、土壌祝福や大地祝福がある。土の下にその魔法陣を魔石で描き、その上で作物を栽培するのだ。
効果のほどを実験するため、土地は大き目に確保してある。後々、農場試験場として、品種改良などの研究も行っていく予定だ。
午後からは見回りの時間にした。将来的に城壁は街道のすぐ近くに造る予定なので、水掘の縄張り風景を見学した。いずれは街道も整備しなければならない。現在は辛うじて道と呼べるような代物である。旅人や馬車が行きかう事によって自然にできた道だ。
カルマまで整備されているような石畳式にするかコンクリート式にするかまだ迷っている。しかし、統一した方が美しいように感じるので、石畳式を採用するかも知れない。
次は、居住区の建築状況を確認に行く。住居は日本的な家屋にするべく、職人と打ち合わせしている。レヴィンに建築の知識はないので、絵で伝えたり口頭で伝えたりと結構大変である。現在はモデルハウスを造っているところだ。
なので、住人達にはしばらく、共同生活を送ってもらわねばならないが、ここはこだわりたいので素直に謝っておく。
開墾の状況を確認しに行くと、農民に混じって騎士候補達も積極的に作業をこなしているようであった。
鉄製農具と牛を使って、丁寧に作業を進めている。農民との関係も今のところは、ギクシャクしているようには見えない。
以前に愚痴をこぼしていた、アレクを見つけたので話しかけてみた。
「アレクさーん! お疲れ様です」
「うおッ 閣下! お疲れ様であります!」
切株を引っこ抜く作業に没頭していた彼は、手を止めて挨拶を返してきた。
一緒に作業していた人も手を止める。自分から声をかけておいて何だが、レヴィンは、自分の気まぐれで作業をストップさせた事に罪悪感を抱いてしまった。
小心者と言うかなんと言うか、自分は、領主になんて向いていないのではないかと思うレヴィンであった。
「いや、手を止めさせてしまってすみません。作業を続けてください。でも適度に休憩を取ってくださいねー」
レヴィンは、皆に労いの言葉をかけると、その場を後にした。
次に中鬼族の村へ足を運ぶと、住居を造る者と開墾作業を行う者に別れていた。
住居は、日本家屋にする予定だが、あくまでも将来的な話だ。
以前の竪穴式住居のようなものではなく、林から伐り出した木材を使って高床式の住居を造っている。
誰かの入れ知恵だろうか? それとも、種族進化が影響を及ぼしたのだろうか?
ガンジ・ダに尋ねると、川や湿地帯が近いので、湿気を避けるために高床式にしたと言う。
自発的な行いに、これは大きな進歩だとレヴィンはとても嬉しくなった。
開墾作業は、今も人間に指導を受けているようだ。
ようやく鍬を振るう様子も様になってきている。
現在は、土を耕している者が多い。
人間に、これから植える野菜類の苗について説明してもらっている者もいる。
説明を受ける中鬼族の表情はどれも真剣そのもので、これまた嬉しくなってしまうレヴィンであった。
ジグド・ダが見当たらなかったので、探してみると、川の傍で釣りをしていた。
話しかけると、人間に教えてもらったと言っていた。
網を作って漁をさせてみるのも面白いかも知れないと、レヴィンは思い始めるのであった。
せっかくなので、高蜥蜴人族の村がある湿地帯まで足を延ばしてみた。
彼等は、湿地帯の上に木材を使って住居を建てている。
陸地じゃなくて湿地帯の上に建てるのか、と何だかもったいない気分になってしまう。
湿地帯は色々な生物の宝庫なのだ。
川の方では、何人かが素潜りして、魚を取っている。
銛を片手に器用なものである。
水が苦手なのかと思っていたがそう言う事はないそうだ。
ドドーマは体を使う仕事が性に合っていると言う。
森の木を切り倒して住居用の木材に加工している。
頭を使う作業は、ジェイクが取り仕切っているようなので、彼と細かい作業の打ち合わせを行った。
その後も作業を見て回っては、責任者と打ち合わせを行うレヴィンであった。
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