全員が依頼書を覗き込む。
「「「ケレナージュの討伐?」」」
三人の声がハモった。
「うん。見ての通り、ランクDの木の魔物、ケレナージュの討伐だ。ちなみにアリシアのロッドの素材だな」
依頼書には精霊の森の東側でケレナージュが増殖していると書いてあった。
討伐数は一匹当たり銀貨三枚。魔石は別料金である。
「なぁ何故この依頼なんだ? 最初は初心者らしく小鬼の討伐とかがいいんじゃないか?」
ダライアスが疑問を口にする。
「まぁ、ちょっと座ろうか」
レヴィンは皆を待合所の椅子に誘導する。
全員が座るのを待って話の続きを始めた。
「まず何故、小鬼の討伐にしないのかについてだが……俺が小鬼を殺したくないからだ」
「殺したくない? 奴等は人間を憎んでいるんじゃないのか? ならば倒すしかないのでは?」
「小鬼は人間と同じ言語でコミュニケーションが取れる。そして俺は一部の小鬼と仲良くなってしまった。彼等が人間に仇成すものばかりではないと解ったからだ」
「小鬼ってしゃべれるのッ!?」
アリシアは驚愕の声を上げる。
シーンも目を見開いていた。もちろんダライアスも知らなかったようだ。
「ああ、それに豚人なんかは人間を見ると問答無用で襲ってくるが、実は小鬼はそうじゃない。まぁ豚人もしゃべれるんだが。それに皆のレベルが低い場合数で押し切られる可能性がある」
「レベル?」
「ああ、鑑定士に鑑定してもらうと解るんだが、この世界には強さの指標みたいなものが存在する。要するに弱いときついから他の魔物でレベルアップしましょうって事」
「豚人はランクがDって他の依頼書に書いてあったよ。ケレナージュと同じじゃない?」
まぁ当然の疑問である。
「単純な話だよ。ケレナージュは動けない。やばくなったら逃げられるって事だよ」
ケレナージュについては資料で確認済みだ。
「はえ~。そうなんだ~」
「理解した……」
「そう言う事なら問題ない」
三者三様の言葉が返ってくる。
「後、他にも獣を少し狩ろうかと考えている。これはダライアスの親父さんの説得のためね」
「助かる」
ダライアスは感謝の言を述べながら手でスマンという表現をしていた。
「あとそうだ。今度、折を見て小鬼の知り合いを紹介するよ」
レヴィンはそう言うと、依頼書を受付に持って行く。
受付嬢は慣れた手つきで手続きを終える。
そう言えば、戦い方について話していなかったなと思い、再度皆に語りかける。
「基本戦略だけど、アリシアは付与魔法で味方の強化、ダライアスは前衛で攻撃、シーンはわずかな傷でも回復してやって欲しい。アリシアには言ったと思うが、こまめに攻撃や回復を行えばそれだけ職業点が稼げるのでそれだけ職業レベルが上がりやすくなる。だからシーンは毎日魔法を空撃ちしまくる事をお勧めする。ダライアスは技を覚えると思うので、覚えたら技の発動が日課になるな」
学校では教わらない事実に一同、真剣な面持ちで聞き入っている。
「明日は南の城門に九時に集合しよう。今日は思ったより時間喰っちゃったからな。ゆっくり休んで欲しい」
そう言うと今日は解散という事になった。
次の日の朝。
レヴィンはアリシアを連れだって王都南の城門に向った。
到着すると、既にシーンとダライアスが待っていた。
「おはよう。待たせちゃった?」
「いや、待ってないよ」
「じゃあ、出発しようか」
各自、朝の挨拶を済ませると早速、出発する事となった。
目的地は王都南に広がる森林、精霊の森の東側だ。
皆、意気高揚しているようだ。速く戦いたいのだろう。
ケレナージュが生息している場所まで一時間半といったところだろうか?
時間が解らないので、余裕ができたら機械式の腕時計を買うのも良いかも知れない。
「しかし、木の魔物に刃が通るのかな?」
ダライアスがもっともな疑問を口にした。
「うーん。流石に解んないな。戦った事ないし。まぁ最悪燃やしてしまおう。できたら素材も確保する方向で」
女子達も後ろでペチャクチャしゃべっている。
いや。しゃべっているのはほとんどがアリシアだ。
「ところで剣を持った感じはどうだった?」
「ああ。素振りとかもしてみたけど、軽くていい感じだったよ。何でも斬り裂けそうな気がしたくらいだ」
それは僥倖である。
そうこう話をしているうちに森の東側へとやってきた一行。
「ここら辺かな? 姿絵は確認してきたから解ると思ったんだけど」
もう少し森の縁に沿って歩いてみる事にする。
しばらく歩くと、それまでの森の木々とは異なる木が何本も立っているのが見て取れた。
「あれかも知れない。ダライアス! 先制攻撃を頼む」
「おう!」
そう言うと、ダライアスは、それらの木の一本に牙の刃ヴァルファングを叩きつける。
「キョオオオオオオオオオ」
斬りつけられたそれは悲鳴ともつかない声のようなものを上げ始めた。
木の洞だと思っていたものが目や口のように見えてくる。
「斬れるぞッ!」
そう叫ぶと続けざまに一本、もとい一匹のケレナージュに斬撃を喰らわせる。
「アリシアッ! 魔法で援護!」
「防守固界」
ダライアスの体を橙色の光が包みこむ。
防御を強くする付与魔法である。
続けてアリシアは魔霊増幅をレヴィンとシーンにかける。
魔力に補正がかかったところでレヴィンの魔法が炸裂する。
「火炎矢」
生木だから燃えにくいかとも思ったが、この魔物は燃えやすいようだ。
一匹が成す術もなく炎上する。
他の数体を同じく火炎矢で片づけつつ、敵はどうやって攻撃するのだろうかと注視していると、ダライアスが斬りつけてい一匹が枝をしならせて攻撃してくる。
彼はその攻撃を容易く剣ではじくとスッパリ斬りとる。すると今後は洞から黒い霞のような何かを吹き付けてきた。
あの木の洞に見えるものは実際、目や口なのかも知れない。
まともに喰らうダライアス。
「治癒」
すかさずシーンの回復魔法が飛ぶ。
「ダライアスッ! 状態はどうだッ?」
「解らないが、今は問題ない!」
「シーン。念のため解毒も頼む!」
早速、解毒魔法がダライアスを包み込む。
「空破斬」
十分な距離を置いてレヴィンは違う魔法を放つ。
すると、スパッと根本付近で一刀両断され木材と切株のような状態に分かれる。
その個体はそれで動かなくなった。
もしかしたら根っこから大地の力を吸い上げて動いているのかも知れない。
(やっぱり、魔法攻撃の方が相性がいいな……)
ダライアスはようやく根本を斬り倒し、一匹をしとめたようだ。
「魔霊衝撃」
アリシアが魔法を放つ。肉体と精神の両方に衝撃攻撃を与える魔法だ。
魔法を喰らった個体は例の叫び声のようなものを上げる。
効いているようだが、一撃必殺とはならない。
レヴィンの魔法ならさっさと敵を殲滅できそうであるが、彼は仲間の成長に重点を置くつもりだったのでできるだけ魔法は控え、状況の把握に努めていた。
ダライアスは攻撃のコツがつかめてきたようで、一匹を倒す速度が上がっている。
アリシアは魔霊衝撃でチクチクと敵にダメージを与えていた。
付与術士は攻撃魔法のバリエーションが少ないから仕方ないところである。
そして淡々とした作業のような攻撃が続き、次々と敵を倒していった。
最後の一匹をレヴィンの魔法が止めを刺して討伐は終わった。
手分けして魔石の回収にかかる。
シーンはケレナージュの枝や拾える程度の材木を集めていた。
素材になるかも知れないからだ。
結局、魔石を数えると十六個あった。
最後に切株になっている個体も含めて火魔法で燃やし尽くす事にした。
切株などから芽吹いてきて魔物として復活するとも限らないからだ。
気づくとダライアスがボーっと突っ立っている。
何故だか解らなかったので、聞いてみると、どうやらレベルが上がった事を神の祝福によって実感し、感動していたようだ。
アリシアとシーンは平然としている。
どうやら職業レベルが上がった経験があったのであまり驚きはなかったようである。
「じゃあ、森に入って出会う魔物や獣を倒していこうか」
レヴィンはそう言うと、ダライアスを先頭にして歩き始めた。
それからスパッツァ二体とエアウルフ六匹、豚人三人、アルラウネ三匹と遭遇し、これを倒した。
ちなみに豚人とも話をしようと試みたが無駄だったのは言うまでもない。
また、獣はワイルドボアを二匹狩った。
血抜きして皮を剥ぎ、肉を切り分ける。
冒険者ギルドで報酬を受け取って素材と魔石をお金に換え、肉と共に山分けして家路についた。
こうしてパーティでの初めての戦いは幕を降ろした。
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