気が付くと、レヴィンは、クローディアに上半身を抱き起されていた。
シェリルと共に心配そうな顔でレヴィンの顔を覗き込んでいる。
そして、前に立ちはだかるのは忍者のカゲユである。レヴィンからは背中しか見えない。
気を失っていたのは、わずかな間だけであったようだ。
カゲユとニコライの間には、緊張の糸が張り詰めている。
レヴィンの体は先程とは打って変わって軽くなっている。
体調が良くなっているのだ。これはカゲユが白魔法で回復してくれたのだろう。
レヴィンは、戦闘中に気づいた事や、判明した事をカゲユに教える。
「カゲユさん、あいつはおそらく薬師だ。黒魔法も使ってくる。後は、気配遮断系の能力も持っているみたいだ」
「おう。気づいたか。一人でよく頑張ったな」
レヴィンはカゲユとニコライの戦力の差を分析してみる。
カゲユは、二本の忍者刀を振るい、白魔法を使う事ができる。動きは俊敏で捕えるのは中々骨だろう。
一方のニコライは、薬師で、レヴィンとの戦いで既に何種類ものドーピングをかましている。
おそらく鬼力で力の底上げ、龍の祝福で身体強化、物理・魔法防御アップ、大精霊力で全属性の攻撃力アップと言ったところか。生半可な魔法は効かないし、忍者刀が通るかは解らない。カゲユでも苦戦は必至だと思われた。
一応、これらもカゲユ達に伝えておく。あくまでレヴィンの見解であるが。
気分が良くなったので、レヴィンも立ち上がり、改めてニコライと対峙する。
更には、クローディアもカゲユの横に位置取った。手には、アサシンダガーを携えている。
シェリルは前には出ないが、後方でニコライの様子を窺っているようだ。
そんなニコライは、無言でレヴィン達を睨みつけている。
「光弓()」
開幕の一撃はレヴィンの光の矢だった。先程もダメージを与えた、レヴィン虎の子の魔法である。
ニコライも、流石にそれを喰らう気は起きなかったのか、横にステップしてかわすが、魔法に合わせて間合いを詰めたカゲユとクローディアを警戒し動きを止める。
「光弓」
そこへ、今度は、弓なりに光の矢を飛ばすレヴィン。光の矢は放物線を描き、ニコライの頭上から降り注ぐ。
避けようとするが、カゲユがフェイントを入れて牽制すると、避けきれなかった一筋の矢がニコライの背中に直撃する。
すかさず斬りかかるカゲユに、短剣で応戦しつつ、後ろに回り込んだクローディアを魔法で迎撃しようとする。
「火炎球」
しかし、強化しているものの、単発で放たれた火炎球などそれほど脅威にはならない。
クローディアは半歩横にかわしただけでペースを落とさずにニコライに迫る。
ニコライに肉薄するとダガーを小刻みに振るう。しかし、当たっても、それでダメージが通るかは解らない。
クローディアは、チマチマ攻撃したかと思うと、カゲユが二刀流でニコライの短剣を絡め取ったのを逃さずに、大振りの一撃を放った。
チマチマ攻撃はフェイントだったようだ。
三人の接近戦になっているので、レヴィンは、遠距離からの魔法攻撃は諦めて、斬り合いに参加するために駆けつける。
流石に三人同時に相手をするのはきついようで、大きなダメージを期待できないクローディアの一撃にも圧力を受けている。ニコライの額から大粒の汗が滴り落ちる。
キィィィン!
ニコライの短剣が完全に折れて使い物にならなくなった。
それを逃さず三人が一斉に斬りかかる。
レヴィンは一撃は、背中を、カゲユの二刀での攻撃は右腕を、クローディアのダガーでの突きを浅くだが脇腹を、それぞれ傷つける事に成功する。苦痛にうめき声を上げて、破れかぶれに素手での攻撃を繰り出すニコライ。
強化された素手での攻撃は、武器による一撃にも匹敵する。
間合いを取る三人にカゲユが術を使う。
「火遁」
火炎球より大きな火の球がニコライを包むが、身体強化によってところどころが焦げるにとどまる。
しかし、炎に包まれ視界が無くなる瞬間をレヴィンは逃さない。
「宙畏撃」
最近、覚えた精神系の魔法だ。この魔法は魔族をも滅ぼすと言われている。
伝説の大魔導士、イーヴァが創ったとされる魔法の一つだ。
青色の衝撃波が飛んでいき、ニコライを吹っ飛ばす。
その先は、泉であった。堪らず落ちるニコライ。
「ぐ、が……」
最早、ボロボロになってしまったニコライは泉の中をフラフラと彷徨いながらも滝の方へと移動する。
「光弓」
レヴィンの追撃の魔法が放たれる。
その光は、次々とニコライを貫いた。
「観念しろッ! ニコライッ!」
満身創痍のニコライに、クローディアは、そう叫ぶが、レヴィンはトドメを刺す気で大きく飛ぶと大上段からヴァルガンダスを振り下ろす。
ニコライの右手がその一撃を受け止めようと動く。左手は滝の中に突っ込んでいる。
その時……。
――闇が生まれた――
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