事件の首謀者を捕えたとは言え、レムレースには未だ大量のアンデッドが徘徊していた。
さらにアンデッド化されたマチューら五人と、Sランクのアンデッドである、カヴァルイーツが残っている。
デボラ達は、騎士団の協力を取り付け、残存戦力の討伐に当たっていた。
死霊術士、フェリクスによれば、生まれた負の連鎖は最早、断ち切る事はできないと言う事だ。
もう誰も負の輪廻は止められない。
地道にアンデッド討伐を続ける他ないのであった。
しかし、騎士団の投入により、成果は見違えるほど上がっていた。
交代制で、昼も夜もアンデッド討伐が行われた。
討伐数が新たに生まれるアンデッドの数を上回らなければ意味はないのだ。
レヴィンはデボラとダライアス、ライル、シャルロット、アンヌでアンデッド狩りを行っていた。
これだけの戦力が集まれば、一般のアンデッドなど恐るるに足らずである。
順調に作業を進めて行った。また、生存者が見つかる事もあった。
これだけ放置されながら生きながらえてたのは最早、奇跡としか言いようがない。
そしてレヴィン達は、レムレースの共同墓地に来ていた。
「ここが全ての始まりさ」
デボラが墓地の一つを見つめながらそう言った。
一陣の風が悲しそうな声を上げて、墓地を吹きぬけて行く。
遠くから何か動くものが近づいて来る。
デボラが最初に発見した。カヴァルイーツだ。
後ろには五人のアンデッドが控えているようだ。
「決着をつけようってのかい……」
デボラのつぶやきは彼等に届いたであろうか?
デボラが『ホーリーブレード』を発動した。
最初から全開でいくようだ。彼女がカヴァルイーツに斬りかかる。
それを合図に、レヴィン達も後ろにいた五人に一斉に襲い掛かる。
その五人はマチュー達の成れの果てであった。
マチューとレヴィンが魔法を撃ちあう。
「神霊烈閃」
「空破斬」
烈攻がマチューを貫き一部を黒い塵と化す。
レヴィンは圧縮された風の刃をすんでのところでかわすが、左腕が僅かに斬れて血がにじみだす。
「神光輝撃」
ライルがレヴィンの援護に回る。まともにマチューを捕えるが滅ぼすには至らない。
すぐさま魔力弾をお返しとばかりにライルに放ってくる。
ダライアスは騎士のアンデッドと戦っていた。
鍔迫り合いが続くが、腕が互角でも剣の性能が違い過ぎる。
彼は騎士の剣を叩き斬ると心臓目がけて蒼天の剣を突き刺した。
しかし、敵はアンデッドである。胸を貫かれたままダライアスに抱きつくように覆いかぶさる。
すると、ダライアスから力が抜け始めた。
生気を吸われているのだ。
何とか離れようと、もがくダライアス。
ここに至ってもまだ、対アンデッド戦に慣れていないのか、学習していないだけなのか、迂闊さが目立つダライアスであった。
そこへシャルロットの魔法が届く。
「神光輝撃」
ダライアスに抱きついていた騎士アンデッドは、その光をまともに浴びて消滅した。
レヴィンには、マチューを含めた三人が襲いかかっていた。
彼は華麗な体捌きでそれぞれの攻撃をかわしながら、その内の一人に触れる。
「強振破撃」
ゴバァ!
まともに胸の辺りをえぐられて倒れ込み、二度と起き上ってこないアンデッド。
そしてマチューに魔法を放つ。
一番手ごわいのはマチューだ。
常に攻撃し続けなければ致命的な一撃を喰らう恐れがある。
「凍結球弾」
迫り来る氷の弾を難なくかわすマチュー。
そこへレヴィンの脇腹へ強烈な拳がめり込んだ。
修道僧のアンデッドだったようだ。
強烈な一撃だったが、それ故に脆くなった肉体はその衝撃に耐えられなかったようだ。
その腕が折れて使い物にならなくなっている。
レヴィンは再び、修道僧の胸に手を当てると魔法を発動した。
「強振破撃」
グワシ!
その一撃で胸に大きな穴をあけるアンデッド。
その場にどうっと倒れ伏す。まだぴくぴく動いているが戦う事は不可能だ。
後回しにして、レヴィンはマチューと対峙する。
デボラはカヴァルイーツと最初に遭遇した時のように、剣と拳でやり合っていた。
どちらも攻撃をかわし続ける。一発が致命傷になる。そんな戦いであった。
デボラの剣技もかなりの領域なのであるが、中々当たらない。
彼女はずっと聖騎士の職業で戦ってきた。
騎士爵を与えられたのも最近なので、他の職業に職業変更した事はない。
聖剣技しか引き出しがないのである。
剣がかわされたところで『ホーリーブレード』を解放する。
剣から引き出された聖なる力がカヴァルイーツを襲う。
円柱状の聖なる光の柱に飲み込まれたカヴァルイーツから、体中が焼け焦げた煙のようなものが立ち上る。
「ホーリーブレード」
再び聖剣技を発動させるデボラ。
動きが鈍っていたカヴァルイーツに、その剣が届く。
その瞬間、Sランクアンデッドの左腕は斬り飛ばされ、宙に舞った。
接近しているその間合いを嫌って、大きく後方に飛び退るカヴァルイーツ。
苦痛を感じる訳ではないのだが、左腕を斬り飛ばされた恨みからか表情は歪んでいる。
そこへレヴィンの魔法が直撃した。
「グルァァァァァ!」
やっと決まった、轟火撃の魔法。
苦痛なのかなんなのか解らないが、堪らず声を絞り出すカヴァルイーツ。
そこへ恐るべき速さで間合いを詰めたデボラがその体を上下に両断した。
ようやく決着の時を見た瞬間である。
カヴァルイーツの体は黒い塵と化し風に溶け消えた。
レヴィンはマチューと戦いながら忙しなく位置を変えながら魔法を何度も発動していた。
何度もかわされたが、性懲りもなく放ち続けた。
マチューも焦れて魔力弾を放ったり、魔法を放ったりとレヴィンの動きを捉えるのに苦労していた。
「電撃」
「轟火撃」
レヴィンは、電撃を浴びるが装備によって吹き散らされる。
その時、マチューの後方で悲鳴のような雄叫びが聞こえた。
カヴァルイーツの叫び声である。
思わず後ろを振り返ってしまうマチュー。
そこにはレヴィンの魔法を受けて体中から煙を上げている、カヴァルイーツを斬る瞬間のデボラの姿があった。
チッと舌打ちをしながら撤退しようと前を向いた瞬間、目の前にレヴィンがいた。
「果断一閃」
騎士剣技を発動したレヴィンの一撃で首を斬り飛ばされたマチューは、首のない体で二、三歩歩くと地面に倒れ伏した。
こうして激戦に終止符が打たれた。
レヴィン達は死体を集めると、魔法で火を放ち盛大な火葬を行った。
その煙は天まで昇り、同時に光の胞子が辺りに舞い散りながら虚空に消えていくのを見て、レヴィンは世の儚さを感じていた。
デボラも剣を鞘に納め、手を腰に当てながら、空を見上げて何やら感じて入っているようだ。
そして、死体が消し炭になった事を確認すると、全員に告げた。
「さぁ、残党狩りを続けるよッ!」
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