冒険者ギルドへ入ると、ランゴバルトと共ににギルマスの部屋へ入る。
二人共ソファーに疲れた体を沈み込ませ、同時にため息をついた。
ギルド職員がお茶を持って来たので一服しがてら、レヴィンは疑問に思っていた事を尋ねた。
「ノンナさんですが、どうしてあそこまで態度が頑ななんですか?」
「あいつは元々精霊の森に住む精霊族の姫君でな。自分達の種族以外に良い感情を持っていない」
「なんでそんな精霊族が副ギルドマスターなんかに?」
「アウステリア王国はもうずっと前から、こじれていた精霊族との関係の修復を図っている。彼女が王都にいるのもその一環なんだよ」
ランゴバルトは一気にお茶を飲み干すと、お湯を注いでお茶をカップに入れなおす。
しばらく部屋を沈黙が支配する。
「どうして、関係がこじれているのか聞かないんだな……」
「どうせ古精霊族との件でじゃないんですか?」
レヴィンがそう言うと、ランゴバルトは感心したような表情を作る。
「ほう。知っていたのか……お前の言う通り、古精霊族が滅ぶ原因を作った人間に対して良い感情を抱くはずもなく、元から閉鎖的だった精霊族がもっと閉鎖的になっちまったんだ。それを先々代の国王の時代から人間は精霊族に対して誠意を見せ続けた結果、少しではあるが関係改善につながって今に至る訳だ」
「小鬼族に対しても悪感情が強く持っているようでしたが……」
「元々は精霊族の一員だったものが追放されて小鬼族が生まれたそうだからな。嫌悪感があるんだろうよ」
「人間と交流を図るのならもっと品の良い貴族なんかと交流させておけばいいんじゃないですか? 冒険者ギルドなんかだと、人間の醜い部分が一層良く見えると思うんですが……」
「俺も明らかな配置ミスだと思っている。しかし、上はそんな部分も含めて人間を理解してもらいたいそうだ。それが真の友情につながると信じているんじゃねーかな」
真の友情ねぇ……と、レヴィンは懐疑的な視線をランゴバルトに投げかける。
「という事は、このままノンナさんの意見に従って小鬼族を滅ぼすおつもりですか?」
「まぁ魔物だからな。滅ぼしてもどこからも文句は出てこんよ」
「文句を言う者が目の前にいるんですがそれは……」
「そこは割り切ってくれ」
ランゴバルトは、レヴィンが自分から小鬼族を保護すると言い出すのを待っていた。
自分から頼まないのは、彼に借りができてしまうからだ。
「どう割り切れと? 彼等は精霊の森に住んでいるからかは解りませんが、いたって温厚な部族です。他の地域で見た小鬼とは性質が大分違うように思える」
「それを知っている者はお前しかいないんだぞ? 他の者にそれを言って納得してくれる者がどれだけいるかな?」
レヴィンとしても自分から保護すると言ってしまえば、申告義務違反を取り消しさせる事もできず、ギルドに貸しを作ることもできない。貴族になりたてで権威も権力もコネもないレヴィンとしては、頼まれて小鬼族を保護するのがもっとも好ましい結果なのである。
しかし、良い方法が浮かばないで困っているレヴィンであった。
ランゴバルトがトドメを刺しにかかる。
「俺もはっきり言って、小鬼がどうなっても構わないと思っている」
彼としてもレヴィンとの関係悪化はさけたいのだが、悪役に徹するしかないと考えている。
レムレースの件にもレヴィンを派遣したいので、何とか貸しを作りたいランゴバルトであった。
お互いに視線が虚空で絡み合う。
(仮に全員を『種族進化』させても人間が本気になって討伐に臨めば、大きな犠牲がでるのは避けられないだろう)
もっと良い頭に生まれたかったレヴィンである。
(俺の頭脳が大人なら、たった一つの真実を見抜けただろうに……)
どこかの名探偵に嫉妬を覚えつつレヴィンは、口を開いた。
「解りました。小鬼達に聞いてみないと何とも言えませんが、僕が精霊の森の小鬼族を保護して領内に住まわせます」
「そうか。魔物を保護するなんてことは認めがたいが、俺とお前の仲だ。各所に対してできる限り便宜を図ってやろう」
「ありがとうございます」
「しかし、こちらの要求も飲んでもらいたい。レムレースに行って、アンデッド討伐に加わって欲しいのだ」
「解りました。これで報告義務違反についても、お咎めなしと言う事でよろしいですよね?」
「ああ、構わない」
「では、詳細を教えてもらえますか?」
レヴィンは覚悟を決めてそう言った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!