その日の夜、レヴィンは両親とリリスと共に、アリシアの家を訪ねた。
貴族になった事の報告である。今日はアントニーも非番で家にいるのだ。
昔ながらの付き合いで家族のような存在であるからこそ、しっかり報告しておこうという判断である。
部屋に通されると、レヴィンはさっそく貴族になった事を報告する。
「……と言う訳で、貴族になる事になりました。貴族になってもよろしくお願いします」
説明を最後まで聞き終わると、アントニーが口を開いた。
「いやぁ、まさか、グレンとこのレヴィンが貴族になっちまうなんてなぁ」
「レヴィンは昔から賢かったからね。あたしは驚いちゃいないよ」
ベネッタは意外でも何でもないといった様子だ。
「貴族になれたのは『南斗旅団』の討伐のお陰もあるよ。これはアリシアの力も大きい」
急に自分の事に触れられて慌てて謙遜するアリシア。
「あたしは後方で援護してただけだよ~」
「何言ってんだ。そう言う職業なんだから当然だろ? あの敵の人数の中、よく大した怪我もなく勝てたと思うよ」
「アリシアも頑張ったんだな。俺なんて、報道された時の朝刊を取ってあるぞ!」
アントニーが親馬鹿っぷりを見せつける。
「何言ってんだ。うちも保存してあるに決まってんだろ!」
対抗するグレン。
すると、フィルも大きな声で宣言する。
「レヴィン兄ちゃんも姉ちゃんもすごいよ! 僕も早く冒険者になりたい!」
「早く冒険者になって、東の海の果てまで行くんだもんな!」
レヴィンは何度も聞いているフィルの夢を口にする。
そして乱暴に彼の頭をわしゃわしゃ撫でる。
フィルの夢を応援している一同である。
「それにしてもどうすんだ? 領土をもらったってことはそこへ移住するのか?」
「何もないところに一から街を造るからね。リリスも生まれたばかりだし、そうもいかないよ」
レヴィンはそう否定する。
「俺としても着いて行ってやりたいんだが……」
グレンが苦い表情をして言葉を濁した。
「王国で開拓民を募集してくれてるし、マッカーシー卿も人員を出してくれるって話だし大丈夫だよ」
「しかし、ある街で人が増えると他の街で人が減る訳だからなぁ……労働力を奪われるんだから、他の貴族の協力は得られにくいんじゃないか?」
アントニーは人が本当に集まるか心配なようだ。
「そこは色々な街で粘り強く募集するしかないね。あと、僕は西からの難民や、他国の人も招き入れたいと思っている」
「なッ!? 難民もか?」
驚いた声を上げるグレン。
「難民のせいで王都の治安が悪くなっているし、シ・ナーガ帝國の人って傲慢だって聞くよ? 大丈夫なのかい?」
ベネッタも心配そうにレヴィンを諭しにかかる。
王都の治安が乱れているのは聞いていたが、難民たちの性質までは知らなかったレヴィンである。
「そうなんだ……色々調べないといけないね」
「それに場所も場所だけになぁ。魔の森の近くなんだから、軍備にも力を入れなきゃならんだろうしな」
アントニーが戦力の保持についても言及する。
「よかったら俺が警備してやるぜ?」と現役警備隊らしい事を言っている。
「そっか。戦力と言えば、冒険者ギルドにも支部を置いてもらわなきゃいけないね。今度、ギルドマスターのランゴバルトさんに相談してみよう」
「ああ、誘拐事件の時、知り合ったんだったな」
グレンも面識があったはずだ。
「レヴィン兄ちゃんッ! 名前は? ねぇ街の名前はどうするの?」
フィルが興味津々で質問してくる。
「そうだよッ! レヴィン! 格好良い名前にしなきゃだよッ!」
「一応、考えてはあるよ」
「おッ、是非聞かせてもらおうか」
家族そろってノリノリである。
「古代史で習った言葉だよ。ナミディア……理想郷と言う意味だ」
レヴィンはキメ顔でそう言った。
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