やがて休日となり、約束通りにレヴィンはアマンダに連れられてマルムス教の集会に訪れていた。
場所は、西のトータス地区にある、スラムにほど近い集会所であった。
深緑色のフード付きのローブを着て、できるだけ目立たないような格好をしている。
(というか明らかな人選ミスやろがい!)
物事は得てして中々適材適所とはいかないものである。
様々な思惑が絡み合う宮廷内の派閥や権力闘争なんやがあるのだろう。
紅の腕章をつけた人が、入り口で来場者のチェックをしている。
入り口まで来ると、アマンダが自分の知人だと言ってレヴィンを紹介する。
レヴィンが自分が貴族だとバレないかヒヤヒヤしていたが、受付はレヴィンという名前に心当たりはなかったようだ。
まぁ王都に同じ名前の人間はいるだろうし、顔写真がある訳じゃないから大丈夫だろう。たぶん。
アマンダにも目立ちたくないと言い含めてあるので大丈夫だろう。たぶん。
大丈夫だよな!?
新しく腕章をもらい、腕にはめて、とめる。
集会所に入ると、そこには既に数十名の人が集まっており、部屋の中の祭壇に神像らしきものが安置されている。
彼等はそれに向かって一心不乱に祈りを捧げている。
手は合掌ではなく、両手で拳を作ったような感じの祈り方である。
神像は、何で出来ているかは解らないが着色されており、白いローブを着て背中から黒い翼のようなものが生えている。
それ以外は姿形は人間と言っていいだろう。髪は長く、金髪でその表情から女性のように見える。
「あれがご神体で、唯一神ローズマダー様よ。こうやってお祈りするのよ」
さすが信者である。アマンダは少し興奮気味に、そう説明してくれた。
言う通りにお祈りする振りをしながら、周囲を見てみると、貧しい身なりの者が多いが、ごく普通の格好をしている者もいる。
流石にキッドマンのようなド派手な格好をしている者はいないが。
信者の周囲には何人か立って見張っている者がいる。おそらく教団の関係者だろう。
「何か、お祈りの言葉みたいなものはあるんですか?」
「天から降臨せし我らが神よ。我等の祈り聞き届けたまえ。神の前では全ては平等である。悪をくじき、正を為せ。さすれば糧は与えられん。全ては御心のままに。フーリン」
念仏の類はあるのか解らなかったが、定型文があるようだ。
それにしても何だフーリンって。
フーリンが死んだ!!
そんな話をしている間にも集会所に人が増えていく。
さして広くない部屋が信者でいっぱいになった頃、一人の司祭風の男が入ってきた。
あちこちから、その男の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「司祭の聖ニコライ様よ。怪我や病気を癒してくれる偉大な方よ。下賤な者にも慈悲深く接してくれるの」
下賤ねぇ……神の前では全て平等じゃないのか。
ニコライは祭壇の前まで来ると、手を挙げて、人々の声を制止した。
「全ては御心のままに……。迷える咎人達よ。神は全てをお許しになるだろう。祈りなさい。さすれば糧は与えられん」
すると、ニコライの下に自分の罪や秘密を告白しようと人々が殺到する。
誰が何を指示するでもなく、告白する一人を全員が取り囲む形となり、中央の一人が懺悔を始める。
周囲からは罵倒の声が浴びせられ、その一人を追い込んでいく。
そして最後にニコライが救いの言葉をかけるのだ。
(ブラック企業や自己啓発セミナーのそれだな。洗脳されそうだ)
「アマンダさん、僕もこれやるんですか?」
「しッ! 黙って聞いてなさいッ!」
アマンダは既に入り込んでいるようだ。小さい声でレヴィンを注意する。
何人か、それを繰り返して、懺悔の時間は終了した。
レヴィンは、自分もいつかこれを体験しなければならないのだろうかと不安になる。
最後にニコライが締めの言葉を述べると、皆が集会所から出て、どこかへ向かうようだ。
「次は炊き出しを行うのよ」
既に別の人達――教団側の人間だろう――が炊き出しの準備をしていた。
皆、それぞれ作業を手伝い始める。
しばらくして鐘が鳴らされると、どこからともなく、人が集まってきた。
配給の列に並ぶ多くの人々。
彼等もまた紅の腕章をしている。それをしていれば食べ物をもらえるのだ。
レヴィンも微力ながら手伝いをして、アマンダと教団の人間に褒められた。
彼等から見たらまだまだレヴィンは子供なのだ。
こうしてレヴィンの疲れる一日が終わった。
これからの事を考えると、憂鬱になってしまう。
頑張れレヴィン! 負けるなレヴィン!
まだまだ先は長いのだ!
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