もう十二月も上旬にさしかかろうとしていた。
王都ヴィエナに帰還すると、凶報が飛び込んできた。
レムレースがあっさりと、ヴァール帝國の手に落ちたと言う話だ。
ヴァール帝國が15000の軍勢でさらに南下を開始したとの報道があった時には、周辺各国に激震が走ったものだが、援軍を派遣したアウステリア王国と、アイオロス王国から取って返したインペリア王国軍主力の存在によって、ヴァール帝國軍は南進を中止したと言う。
何故、インペリア王国軍が取って返せたかと言うと、アイオロス王国にレガリア王国が侵攻の構えを見せ、背後を脅かされたアイオロス王国が、仕方なくインペリア王国と和議を結んだためであった。
王都インビックまで蹂躙されかねなかったインペリア王国であったが、何とか九死に一生を得たのであった。
レヴィンとしては命がけで救ったレムレースがあっさりと陥落した事にやるせなさを感じたものだが、それ以上に、友誼を結んだ、デボラの安否が一番気になったのである。デボラの連絡先が解らなくなってしまったので、インペリア王国の王都インビックの冒険者ギルド宛に、手紙を送ってみるレヴィンであった。
レヴィンとダライアスは、レムレースの件の報酬として冒険者ギルドから、白金貨五枚を受け取った。
莫大な額だが、多大な貢献をした冒険者ギルドは、インペリア王国から補償としてお金が入る予定のようだ。
一か月以上拘束された任務だったので、ありがたく受け取ったレヴィンであった。
レムレースから連れてきたクロエであるが、彼女は、どうしてもレヴィンから離れたがらないものだから、現在、グレンとリリナの養子に入る手続きをしているところだ。
レヴィンに七歳の義妹ができる事となるのであった。
学校に復学したレヴィンは、早速、受けられなかった黒魔法の選択授業の内容を聞き、その知識の吸収に努めた。
久しぶりに登校したその日、学校帰りにアリシア達と寄り道していくことになった。
適当なカフェに入った一同は、レヴィンに土産話を期待していた。
なので、レヴィンは適当に差し障りのない話をする。
「ふうん。そんなに大変な任務だったのか……」
そう言ったのはベネディクトである。
「当分、アンデッドは見たくないな。街中を埋め尽くすほどの数だぞ?」
「Sランクのアンデッドって強かったの?」
アリシアは、実感がわかないのだろう。Sランクと聞いてもピンときていないようだ。
きょとんとした顔をして小首をかしげている。
「そうだな。一対一だと死んでたかも知れないな。レムレースの冒険者ギルドのマスターをやってたデボラって人がいるんだけど、その人がまた強くてね。お陰で何とか生き残れたよ」
「レヴィンがそう言うくらいなんだから、よっぽどなんだね」
「ああ、派遣されたアウステリア王国の冒険者で生き残ったのは三人だけのはず。なんか毎回死にそうになってんな、俺……」
「どんだけー」
ロイドがお前は何KOさんだよと突っ込みたくなるセリフを飛ばす。
「本当に自分の力のなさを痛感した戦いだった。ベネディクト! 強くなるためには強力な魔法が必要だ。魔導書集めに力を貸してくれないか?」
Sランクアンデッドならいざ知らず、上位アンデッド程度にも苦戦したのだ。
レヴィンの願いは切実であった。
「僕としても、黒魔法強化にもなるし、是非協力させてもらうよ」
「ホント、魔法が効かないのはきついよ……。武器も伝説級のものが欲しいし、でもナミディアの街造りもあるからお金が必要だし、強くなりたいし。もー時間がない。もーーーーーーーって感じだよ」
「たいへんだよッ! レヴィンが混乱しているよッ!」
「混乱回復……。異常回復! 白魔法を覚えた……」
シーンがレヴィンの不在中に習った魔法の存在を教える。
「マジか。今度、魔法陣を見せてくれよ。覚える事が増えたな」
「あれ? レヴィン黒魔導士なのにどうして白魔法を覚えるんだ?」
ロイドが疑問の声を挟む。
「……」
「……」
アリシアとシーンは沈黙した。
いつか話すと約束したのだ。レヴィンが自分から言うのを待っているのである。
「何故って貴族になったからだね。せっかく職業変更可能になったんだしね」
ベネディクトがすかさずフォローする。
「あそっか。忘れてたよ……」
ロイドはてへへと笑い声を上げた。
しばらく皆で談笑した後、会計を済ませていると、カフェの外から何やら大きな声が聞こえてきた。
一人、二人の声ではない。集団の発するそれだ。
精算後に外に出ると、そこには数十人規模の団体がプラカード――と言っても木の板に黒炭で文字を書いたもの――を掲げながら、大きな声を上げて通りを練り歩いている。
彼等は全員が腕に紅の腕章をつけている。団結の証のようなものだ。
『搾取する王国の横暴を許すなー! 我々は生まれながらに平等だー! スラムに博愛の精神をー!』
レヴィンはその主張を聞いて、思い当たる事があった。
以前に、マルムス教が台頭していると言うニュースを見た覚えがあったのだ。
おそらく彼等がマルムス教徒なのだろうとレヴィンは当たりをつける。
「なんだか怖いね……」
アリシアは不安そうに身を寄せてきた。
ベネディクトとロイドも何か複雑そうな表情を見せている。
「もう帰ろうか」
大声でシュプレヒコールを叫び、デモ行進をするマルムス教の信者達を横目に、レヴィン達は家路についたのであった。
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