レヴィンが帰って次の日の朝、種族進化を果たした小鬼族は中鬼族になり、依然の貧弱ゥな体から逞しい肉体に変化していた。
ガンジ・ダは朝一番に全員を広場に集合させ、そこで意思の決定を行うと宣言した。
話は、移住反対派(と言っても昨日の時点で数人だけだが)を説得する方向で進んだ。
狩りと採集から帰ってきてから種族進化を果たした者もほとんどが、移住に対して消極的賛成派であった。
できる事なら、このまま精霊の森で暮らしたいが、人間と精霊族に目をつけられては討伐対象になる可能性が高いとの理由からである。
反対派の若者は、早速人間に対する非難の声を上げる。
「力を得て解っただろう? この有り余るほどにみなぎる力を! 人間や精霊族はこのような力を持って俺達を滅ぼそうとしている。そして俺達は対抗する力を得た!」
「ゴルゴフ、力はついても知性はちっとも得られなかったようね。あなたはその力を人間からもらったのよ! あなたの言っている事は支離滅裂だわ!」
メリッサがその若者――ゴルゴフという――を激しく非難する。
すると、ゴルゴフは、怒りを爆発させ、さらに激高していく。
「人間が人間の都合で力を与えたに過ぎないッ! あいつだって今は見せかけだけ仲良くしているだけだッ! お前達は騙されているんだッ!」
「何が騙されているだ。お前はいったい何と戦っているんだ?」
「人間と戦うんだッ! これからなッ!」
「人間とは争わない。お前の気持ちはよく解る。お前はかつての俺だ。憎しみに支配されてしまっているんだ」
ジグド・ダはかつての自分と重ねているのだろう。
なんとかゴルゴフをなだめようとしている。
「そんな……。かつての将軍様なら人間を憎んでいたはずッ! どうしてそんなに腑抜けになられたッ!」
「レヴィン殿は我等を滅亡の危機から救ってくれたのだぞ? 豚人との争いを忘れたのか?」
「ただで助けてくれるなんて有り得ないッ! あの人間が裏で何か企んでいるんだッ!」
「お前は何も解っていない。あの絶望的な戦力差を一人でひっくり返したんだぞ。例え何か裏で考えていたとしても中々できる事ではない」
ジグド・ダは攻撃的なゴルゴフに対しても冷静に対処していた。以前の姿からは考えられない事である。
そこへ、長老のガンジ・ダがふぅっとため息を吐いて呆れたように話す。
「何か企むじゃと? 以前の儂等に一体何の価値があったと言うのか。みすぼらしいあの我々の姿を一晩寝て忘れてしまったのか?」
「長老ッ! あなたまで我々を卑下するのですかッ!? それもこれも皆、あのレヴィンとか言う人間のせいだッ!」
「レヴィンの事を悪く言うのは許さない……。彼には三つの恩がある。豚人の件、種族進化の件、そして今回の攻撃的な精霊族の件……つまり移住の件だ。我々はまだ何も返せていない……」
いつもは無口はジェダまでもが、憤っている。彼もレヴィンの事を悪く言われるのは気分が悪いようだ。
そこに司祭ズの一人が、ゴルゴフをかばって、口元に嫌らしい笑みを浮かべて言った。
「しかし、彼の言う事にも一理あります。戦いになっても勝てはせずとも負けもしないように思いますが……」
「確かに人間と争いになったとしても、以前のように、ただではやられまい。しかし、人間の一人や二人倒したところでそれがどうしたと言うのだ? お主はこの部族を滅ぼしたいのか?」
「そ、そんな事が……。我々が滅びるなんて有り得ませぬ!」
彼は長老の後釜を狙っているのであった。
レヴィンと誼を通じた長老の言う事を支持したくない思いが彼の認識を甘くさせる。
「ゴルゴフを一方的に排斥しようと言うのは感心致しませんな」
「誰がいつ一方的に排斥したのじゃ? ゴルゴフこそ一方的な意見を押し付けようとして、儂等の意見を排斥しようとしているのではないのか? 儂は、長老として、個より集団を護る事を優先する」
ガンジ・ダの宣言がトドメとなった。
ゴルゴフは完全に沈黙し、司祭ズの一人――ジルバ・ドと言う――は大いに株を下げた。
その他の若者も威勢を失っている。元々ゴルゴフとよくつるんでいただけの者だったので致し方ない事かも知れない。
こうして、小鬼族、もとい中鬼族のナミディアへの移住が決定した。
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