開拓三日目に、その男はやってきた。
ザ・顔色の悪い男、オスカルである。
彼は以前と変わらず痩せ細った顔をしていたが、昔とは違って明るい笑顔でレヴィンと対面した。
服も新調したのか黒色のローブを着ている。
以前、思った通りの怪しい魔導士のような風貌になっている。
「お久しぶりです。レヴィン殿!」
「お久しぶりです。元気そうで良かったです」
「この度は、叙爵おめでとうございます。この地がレヴィン殿の領地なのですな?」
「そうです。ナミディアと名付けました。それでオスカルさんは、この村に住んでくれる決心はついたと思っていいんですね?」
「うむ。エクス公国に未練はない。迷宮創士の情報を教えてくれたレヴィン殿の造る都市に骨を埋めよう」
「ありがとうございます。ここで地下迷宮を創って多くの冒険者を呼びこみましょう!」
「そうだな。レヴィン殿と会って以来、続けてきた迷宮作成の成果を見せようではありませんかッ!」
「ふっふっふ。その意気や良し! 迷宮を創る場所は確保してあります。案内しましょう」
そう言うと、ルーファスや、ウォルター、テリーズ、護衛数名を引きつれて、目的の場所へと向かう。
この辺の土地は既に縄張りがなされ、いくつもの区画に別れていた。
レヴィンが色々説明しながら大きく幅の取られた道を進んでいく。
「この道が大通りになる予定です。でこちらの西側の土地が地下迷宮用になります」
「なッ!?」
オスカルが驚愕で目を見開いている。
「こんな良い場所に創ってもよろしいのですか?」
「もちろんです。ナミディアのメイン産業の一つになる予定ですからね」
「これは頑張らねばなりませんな」
「では、この奥に創ってみましょう。ここは広場になるので、店や屋台などが軒を連ねる予定なんです」
「解りました。最大規模で作成しますぞ」
オスカルはレヴィンが指定した場所で能力を使用する。
『迷宮作成』
ゴゴゴと低い音と振動がしばらく続いたかと思うと、指定した場所に地下への階段ができる。
ルーファス達は、何が起きたのか解らず、オロオロしている。
「地下へ降りても大丈夫ですか?」
「大丈夫です。降りてみましょう」
たった今、できた階段を降りてゆく一行。
地下一階への階段は結構な長さがあって、降りるのに少し時間がかかった。
降り切ると、そこはだだっ広い一つの部屋になっていた。
部屋と言っても、その広さは果てしなく、見渡す限りの広間になっている。
「街の真下にこんな巨大な空間ができたのか……」
ルーファスが誰に言うでもなく、つぶやいている。
確か、地上では、井戸を何か所も掘っているところだ。
この地下迷宮に貫通しないだろうかとレヴィンが考えていると、オスカルが話しかけてきた。
「私は、この地下が異空間につながっているのでは?と考えています。今から壁を造ったり、小部屋を造ったりしてみますね?」
そう言うと、再び『迷宮作成』の能力を発動するオスカル。
すると、またゴゴゴと低い音が響いたかと思うと、何もない空間から土が生まれ、壁が作成され、通路ができて部屋を形作った。
壁は、石のレンガのような素材でできている。床の土を触ってみるが、昨日調べた、地下の地層の質とは明らかに異なっていた。
「壁や、床の素材も自由に造る事が可能で、変更もできるようですよ。今回は、石造りの壁にしてみました」
エクス公国で、試作の地下迷宮を創っていた時、調べたのだろう。
消えた土がどこへ行ったのか、この壁の材料はどこから来たのか、など疑問は尽きないが、神の創った職業である。
こういうものだと割り切るしかないのかも知れない。
壁や、部屋を造りだすのは確認した。これで、後は考えた通りに迷宮を完成させていけばよい。
次は魔物である。以前はスライムを創るよう指示したレヴィンであったが、他の魔物も創れるようになったのか楽しみにしていたのだ。
「魔物も創ってみましょうか?」
レヴィンがそう提案すると、オスカルは予想していたのだろう。うなずくとすぐに魔物作成に取り掛かった。
『魔物作成』
すると、スライムがレヴィン達の目の前に出現する。
スライムは、目の前でぷにぷにと蠢いているが、特に何をするでもなく、その場にとどまっている。
「しかし、スライムと言っても強くて私は倒せませんでしたよ。普通の攻撃が一切効かないんですから」
オスカルは自分で創ったスライムと戦った事があるようだ。
よくよく思い返せば、レヴィンはスライムと戦った事ないのに気が付いた。
「襲ってこないんですか? こいつ」
「襲わないように待機命令を出しています。戦ってみますか?」
レヴィンがうなずくのを確認すると、オスカルが待機命令を解除したのだろう。
スライムがふよふよと動き始めレヴィンの方へと進み始めた。動きはそれほど速くない。
「火炎矢」
虚空から出現した、炎の矢がスライムを直撃すると、スライムはあっけなく消滅した。
「ああッ! これじゃ解りませんよね。違う魔物を創りますので倒してもらえますか?」
すると、次は、邪精霊族が何もないところから現れる。
顔は精霊族を邪悪にした感じで、人相が悪い。
精霊族を小柄にして人相を悪くし、額から角を一本生やした魔物が邪精霊族であった。
でも精霊族を邪悪にって言ったって知り合いの精霊族は皆、嫌な性格してるからな。
はッ、あいつら邪精霊族なんじゃね?と思うレヴィンであった。
「魔法ではなく剣で倒してみてもらえますか?」
オスカルがそう言うので、大魔導士から無職に職業変更すると、剣を抜く。
相手は素手だ。こちらを威嚇してくるが、あまり怖くはない。
レヴィンは、いつもの癖で邪精霊族に話しかけたが、何も反応がなかったので、あっさりと斬り伏せる。
すると、どぅっと倒れた邪精霊族は、シュッと消え失せてしまった。
その場には、小さな魔石だけが残されている。
「この能力で創った魔物は、死体が残らないんですか?」
「どうやらそのようです。なので素材は手に入りませんが、何故か魔石は残るようですな」
(まるでゲームだな。まぁそれを言ったら職業だってそうか……。他にも色んな要素がありそうだ。試してみたい!)
○思議のダンジョンや、○ザリック地下大墳墓も創れそうだ。
オラわくわくしてきたぞ!
「まだまだ検証が必要な作業ばかりですが、とりあえず階層を深くしていこうを思います」
「そうですね。何階までにしましょうか? とりあえず九十九階にしますか」
「ある程度、深くしたら、一階ずつ迷宮らしくしていこうと思っています」
「でも管理が面倒臭そうですね。魔物も倒されたらいちいち創らなきゃならないんでしょうか?」
「実は、迷宮作成を行ったら、私の前にプレートのような物が出現する仕組みになっているようなんです。今回も出現したので間違いなさそうです。そして、このプレートを操作する事で迷宮の管理ができるようなのです」
なるほど、とレヴィンは思った。他人からは見えないようだ。異世界人のレヴィンにも見えない。
おそらくそれで、どこにどの魔物をポップさせるだとか、階層の造りを変えるだとかを決定するのかも知れない。
オスカルはエクス公国で試した地下迷宮で、色々調べていたようだ。
これなら、任せられそうである。
ただ全部任せるのではなく、自分も意見を出そうと思っていた。
だって、こんな面白そうな事に口を出せないなんて、つまらないじゃないか!とレヴィンは考えていたのだ。
単純な理由である。
「それでは、ここでどんな階層にしていくか考えましょうか」
レヴィンはそう言うと、用意していた、紙とペンを取り出し地面にどっかと座った。
平民の服を着ているので、汚れるとかは気にしないのだ。
とりあえず簡易テーブルを持ってくるようにテリーズに指示する。
「後、必要な物があったら、気軽に言ってくださいね」
「解りました。ありがとうございます」
「浅い階層は、通路といくつかの部屋を組み合わせていくのはどうですか? 深い階層ほど通路だけの迷路のような感じにするんです」
早速、レヴィンとオスカルは悪巧みのような笑みを浮かべながら迷宮創作にかかったのであった。
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