いきなり、ギルドマスターの部屋へと通された一同は困惑していた。
なんで呼び出されたのか心当たりのない一同であった。
案内し終わったギルド職員は、一礼すると去って行った。
部屋の中の重厚なデスクの前には緑髪で緑の目をした男性がゆったりと座っていた。
「突然すまないね。まぁかけて欲しい」
彼はおもむろに立ち上がると、そう促した。
応接セットのようなテーブルとソファーが置かれている。
ここに座れと言う事だろう。
おとなしく指示に従う一同。
するとその男――おそらくギルドマスターだろう――も正面のソファーに腰を下ろした。
そして、ギルドマスターが口を開きかけたその時、部屋にノックの音が響き渡り、一人の金髪の女性が入ってきた。
その女性はレヴィン達をチラリと一瞥すると、何も言わずにレヴィン達の右手にある、一人がけのソファーに座った。
「えっと、まずは自己紹介だね。私はギルドマスターのサディアスと言う。よろしく。それで彼女は副ギルドマスターの……」
サディアスが彼女に目で合図すると、言葉を受け継いで自己紹介を始めた。
「私は、副ギルドマスターのルフィナと言います」
簡潔な言葉で自己紹介を終えるルフィナ。
「はぁ……レヴィンと言います。よろしくお願いします」
レヴィンはとりあえず挨拶を返しておいた。
さらに団員の紹介をしようとした、その時、手で制されたレヴィンであった。
「ああ、問題ない。皆の事は聞いている」
もったいぶった話し方をする男である。
早く用件を話して欲しいと思うレヴィンであった。
「実は昨日、エクス公国の冒険者ギルドから知らせが来てね。君達の功績を知らされたんだ」
ああ、その件ね、と納得する一同。
「すごいね君達。あの『南斗旅団』を壊滅させたんだって?」
「ありがとうございます。それでそれが何か?」
「さらに暁闇の大魔法使いと言う二つ名で知られていたハヴェルと騎士カシュパル、狂戦士ブラッドリーを討ち取ったんだってね」
カシュパルとブラッドリーを討ち取ったのはイザークとイーリスだけどな、と心の中で付け加えるレヴィン。
それにしてもそんな大層な名前で呼ばれていたのか、と思うレヴィンである。
レヴィンとベネディクト、シーン以外は怪訝な表情をしている。何を言いたいのかよく解らないのだろう。
「そこで君達のランクが問題になってね。なんでも『無職の団』はランクE、レヴィン君はランクD、他の団員はランクEだそうじゃないか。それで急遽、エクスのギルドマスターと王都のギルドマスターと話をしてランクをアップさせる事になったんだよ」
それを聞いてようやく笑顔が戻る一同。
緊張が解けたようだ。
「それは、ありがとうございます」
「それで『無職の団』はランクCに、レヴィン君はランクBに、そして他の皆はランクDに引き上げる事が決まった」
「ありがとうございます。しかし、何故僕だけ二階級特進なんでしょうか?」
「君がハヴェルを討ち取ったからだよ。彼はそれだけ名の知れた存在だったんだ」
あの時、無職になっておいてよかったと思うレヴィンである。
「しかし、それは本当に事実なのでしょうか?」
突然、ルフィナが疑問の声を挟む。
「ランクD程度の少年があのハヴェルを倒せるとは思えませんが、大方、イザーク氏かイーリス女史が打ち取ったのでは?」
レヴィンは、いきなり敵対視してくる登場人物キターと内心思っていた。
「彼等がエクス公国の聴取で嘘を話したと言う事かい? それは有り得ないんじゃないかな?」
「それでも私は信じられません……」
「まぁ君が信じなくても、もう話はついているからしょうがないね」
サディアスの無慈悲な言葉にルフィナが半べそ状態になる。
「そ、そんなぁ……」
案外打たれ弱いのかも知んない。
「話はそれだけでしょうか?」
「ん? 急ぐのかい?」
「いえ、別に。明日に備えて休もうと思っているだけです」
話は冒険者ランクのアップだけではないとゴーストが囁いているのだ。
こういう時はさっさと引き上げるに限る。
「ああ、この依頼書かい? ……トロールの討伐依頼か。君達には簡単すぎるんじゃないかな?」
「まだまだ若輩者なもので……もっと強くなる必要があります」
「謙虚だね。ところで実は話はまだ終わっていなくてね……」
急な話題転換である。
悪い予想は当たるもののようだ。
露骨に嫌そうな顔を見せるレヴィン。もちろんわざとである。
その表情に苦笑しながらサディアスは続ける。
「実はカルマから北へ行ったユーテリア連峰の麓にモンテールの街がある。そこからさらに北に行くと、レムレースという街があるんだ」
「お断りします」
「「なッ!?」」
流石に驚きの声を上げるサディアスとルフィナ。
「ちょっと! 話くらい最後まで聞きなさいよッ!」
(これからせっかくレベリングなんだから邪魔しないで欲しいわ)
非難の声を上げるルフィナは相手にしない。
打たれ弱そうだしと、とりあえず無視するレヴィン。
「と、とりあえず話だけでも聞いてくれないかな?」
「聞かないと、ランクアップの話はなくなるので?」
「ちょっと無視しないでよッ!」
「いや、そんな事はないんだけどね……私の顔を立てると思ってさ」
「解りました。話だけ伺いましょう」
「ちょっと!」
サディアスはホッとした表情で話を戻す。
ルフィナは泣きそうだ。ふぇぇ……ってな感じである。
ふぇぇって何だ?
「そのレムレースでね。今不思議な事件が起こっているんだ。インペリア王国は我が国のように火葬の習慣がなくてね。土葬なんだよ。そのせいか夜な夜な死体が蘇るって話でね」
(死霊術士じゃねーか。イザークさん、案外近くに死霊術士がいますよー)
「君達には、その原因を探って解決に導いて欲しいんだ」
「申し訳ございませんが、お断りします」
「そこを何とかならないかな?」
困った顔ですがってくるギルドマスター。
「それはギルドとしてのご命令で?」
冒険者ならば、冒険者ギルドから強制依頼が出される可能性がある事は知っている。
「いや違う」
「そもそも、魔の森を迂回して、レムレースに行くとなると移動だけで半月以上はかかりますよね? 夏休みも終わっちゃいますよ。それにもっと適した冒険者がいると思うんですけど、ギルドはそんなに人材不足なんですか?」
こんな冒険者歴の短い若造に頼む意味が解らないレヴィンであった。
「いや、他の冒険者パーティにも声はかけているところなんだ……」
サディアスの声が段々弱々しくなっていく。
その時、ルフィナが急に大声を上げた。
「解ったわッ! そこまでして断ろうって事は知れるのが怖いのねッ!? 自分達の実力がバレるのがッ!」
そのような見え透いた挑発に引っかかるヤツはいない。
「黙って聞いていれば……レヴィンの実力が低いみたいな事言って! 言いがかりばかりつけないでくださいッ!」
引っかかるヤツがいた。アリシアである。
今度は無視されなかったので息を吹き返すルフィナであった。
「ならそれを証明して見せることねッ!」
「わか「お断りします」
アリシアの言葉に被せるレヴィン。
絶句するアリシアとルフィナ。
「いいかアリシア。学生の本分は勉強だぞ? 俺達は若い。まだまだ時間はあるんだ」
その言葉にアリシアは、シュンとする。
「わ、解ったよ……今回は諦めておくから、落ち着いて……」
慌てて仲裁に入るのはサディアスである。
「な、なによッ! 人を年増みたいに言ってッ! 精霊族だからって馬鹿にしないでよッ!」
精霊族なのかこの人、とレヴィンは軽く驚いた。
初めて会う精霊族である。年増と言う言葉に反応するという事はそれなりの年齢なのだろうか。
「まぁまぁ……彼女の事はフォローしておくから、今日はもういいよ。ありがとう」
「解りました。それでは失礼します」
トロールの討伐依頼書を受け取ると、逃げるように退室する一同。
後ろでは「何よ。だから人間は野蛮で嫌いなのよ……」と聞こえてくるが気にしないでおく。
「なんか今日は疲れたな……手続きをしてさっさと宿に戻ろう」
レヴィンはそう言うと、一階への階段を降りはじめる。
皆の顔はひどく疲れているように見える。
手続きが終わったのは、時計が十九時を回ったところであった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!