トイレの外に立っていた男は二メートル以上はあると思われた。そして実際に二メートル以上あった。
(スマッシュよりでかいじゃん)
戦兎は我に返った。
「Um…. Thank you for letting me use the toilet…」
「 ?」
ガルドは短く唸った。
(あ、やべ。英語通じんのか…)
ガルドを見上げた戦兎と、戦兎を見下ろすガルドはお互いに固まってしまった。お互いに間合いの中にいた。戦兎は相手を観察した。
(デカイ!金髪ロン毛。瞳は緑。年は石動さんくらいか?俺並みのイケメン。なんつって…)
(かなり鍛えられている。バランスも良い。重心の取り方も…いや、どこか庇っている?怪我か…)
戦兎はあえて目線を切って、相手の足元に視線を移しにかかった。ガルドの背後に何かが動いた。慌てる事なく確認した。
広間の入り口の陰から顔だけ出して、こちらをうかがっているイズと目が合った。イズはすぐに引っ込んだ。戦兎はその場所を見つめたままでいた。
戦兎の視線を追いかけてガルドは肩越しに振り返った。戦兎はガルドに視線を戻した。ガルドも頭を戻し戦兎を見た。再び視線がぶつかった。しかし一瞬だけの事だった。ガルドは踵を返し、広間へと歩き出した。仕方ないので戦兎も後をついていった。
広間ではイズがテーブルに食事を並べていた。ちょうど食器を置いて上目遣いになったイズとまた目が合った。戦兎はその目をじっと見つめた。イズはすぐに反らした。
イズとガルドが並んでテーブルについた。二人の前にはそれぞれ食べ物ののった皿が二枚とスープの入ったカップが一つあった。そして二人の向かい側に同じものが一組並べてあった。木の椅子が一脚だけあった。
戦兎はテーブルの側で突っ立っていた。
「 、 。」
イズが目をあちこちにやりながらも、戦兎に話しかけてきた。
「えっと、俺、座っても良いの?」
最も気持ちが伝わるだろうかと思い、母語を使った。どのみち、どちらも通じないのだ。自分自身と椅子を両手で指差しながらジェスチャーで示した。
「 ! 、 !」
開いた目をきらきらさせながら、イズもそれらしい手振りを交え返してきた。自分に向けられた笑顔がぎこちないものであったが、こちらの推測を否定するほどのぎこちなさでは無かった。
思いが相手に伝わるということが、こんなにも心を満たすものなのだと戦兎は知った。日常生活の上でのささやかな行為の確認というものであったが、過酷な闘いの果てだけを追いかけてきた戦兎の中に、彼が今まで知るものとは違う達成感が、彼の中に一つ産まれた。
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