(自然志向の強い暮らしぶりなんだな)
戦兎は温かい茶のような物を飲みながら、食事と同じように添加物が含まれていないようなのを感じながら考えていた。
イズに促されて席についたあと、不安そうな彼女の視線と目が合った。戦兎は微笑んで見せた。恐る恐る一口食べた。
(あ、旨い)
イズに向かって頷いて見せた。通じたようでイズの顔にも笑顔が広がっていった。食事は簡素で、初めて口にするものもあった気がしたが、どれも美味しかった。
「とても美味しいです」
戦兎は言葉にして伝えずにはいられなかった。
「 、 」
イズも声に出して答えた。
どちらの顔にも笑顔があった。
(それにしても綺麗な人だな)
ややもすると、戦兎はイズに見とれてしまいそうになった。大事なことを考えるのを忘れそうになってしまう。
(そもそもここはどういう所なんだ?俺がここにいて問題無いのだろうか?)
(この人たちはどういう関係なんだろうか?)
イズとガルドの容貌や室内の様子やなんかから、戦兎は取り敢えず推理したりしてみた。
(まー、ヨーロッパの方だよな。そして二人ともにかなりの高身長。彼女の方も俺より一〇センチくらい高い。オランダ人て背が高いんじゃ無かったか?オランダってオランダ語か?なら分からんな…。英語も通じそうだけどな。もしかしたらドイツ語の勢力圏内かもな。あとで試してみるか…)
(オランダはともかく、ヨーロッパのどこかだよな。家の造りの感じからして。紀行番組とかの知識しかないけど…)
室内の壁から勾配の強めの天井に沿って、三角の木組みが順に組上がっていた。梁が見えるままの斜めになった天井まで空間が広がっていた。無垢材の美しさが映えた。曲がった木材をそのまま斜め部分にアーチ状に使用しているらしい所などを、物理学者のこの珍客は感心したように見ていた。
(こういうの出てたの覚えてるわ。スイスかどっかだったような…)
(あとは、なんたって暖炉!初めて見たわ)
それから、衣服や自分にかけられていた寝具についても考えた。コートらしきものが部屋の壁際に干されていた。
(コートというよりは外套、マントに近い。くたびれかたからして、かなり物持ちが良いみたいだ。今二人が着ているものも、ざっくりとしたセーターに近い感じか?そして、俺が使わせてもらってたやつ、あれは毛皮なんじゃないか?先細っているのにしっかりとしていた。化学繊維とは違っていた…)
床にも靴のままの生活がうかがえるし、日本ではないなと、戦兎は床を見た後、天井にもう一度見上げた。
違和感があった。
(何か…)
なるべく驚きを顔に表さないように努めた。
(何て事だ )
電灯らしき物が、全く無かった。
(トイレと言い…。コンセントも見当たらない…)
まさか。
戦兎は、アメリカにある現代文明を拒絶している町の話を思い出した。
(あそこにいる人たちって欧州からの移民の子孫だっていうんだったか )
じゃあ、北米と言うこともありだな。戦兎は素朴な村に迷い込んだ刑事のように、深刻そうな顔つきでイズの顔を見ていた。
戦兎があまりに見つめてくるので、イズは恥ずかしくなって俯いたとき思わずこめかみの髪をかきあげてしまった。
エルフの特徴的な尖った耳が露になった。充血して赤くなっていた。
それを見た戦兎は、今度は上手く驚きを隠せなかった。今していた考察を根本からやり直す必要があると思った。
戦兎の表情に気が付いたイズはハッとして、直ぐに髪を戻して、両手で側頭部を隠した。
ガルドは、娘が男に隠していた耳を見せた事に驚いた。しかも、それの見事に染まっていた色を目にして、手に持っていたカップを落とすほどにショックを受けてしまっていた。
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