イズに手を引かれて戦兎道の端に来ていた。バーロックスが倒れている所から反対の方だった。獣の周りにいる者達が二人を見ていた。ジールは肩を痛めているガルドの代わりにナイフを角から抜いてやっていた。
イズは戦兎から手を放すと突然しゃがみこんだ。小石が幾つか積んであった。イズはそれらを慎重にどかした。
「あ 」
ドラゴンフルボトルが出てきた。
「君が?」
戦兎は自分を見上げてくるイズに聞いた。そして自分も体を屈めてボトルを取りにかかった。
「 〈き気を付けて〉」
イズが何か言ったので見ると、凄く心配そうな顔をしていた。取り敢えず安心させようと小さく笑っておいた。
イズは戦兎がバーロックスを倒した瞬間というのは目にしていない。戦兎がバーロックスに飛び込んだ時に出た強烈な光が眩しくて見ることが出来なかった。光が引いていくと獣がゆっくりと倒れていくのが目に入ってきた。それから戦兎の腕がだらりと下がり、やはり倒れていった。どさん、という獣が地面に伏す音が聞こえた。戦兎の手から何か光る物が溢れた。
イズは戦兎を獣の近くから離した後に、ボトルが凄く気になったので獣の近くに確かめに戻った。まだ光っていた。綺麗だなと思った。恐る恐る触れてみた。
「きゃっ」
熱かった。思わず悲鳴が出た。光が急速に閉じていった。
「あ」
何とも精巧な造りの物に見えた。
(あの人のかな。凄く高価な大切な物かも…)
そう思ったもののイズは手で触る気になれず、なんと足で転がそうと試みた。見た目の大きさ以上に重かった。少しめり込んでいてなかなか動かない。ちょうど良いものが近くに落ちていたのでそれを借りることにした。テコの要領で何とか道端まで移動できた。剣の先が焦げていた。ボトルの上にそっと小石を積み重ねておいた。
何でもないように戦兎がボトルをつまみ上げるのを見てイズは驚いた。
(あんなに重かったはずなのに)
熱くもないのだろうかとも思った。しかし、戦兎はボトルを顔の上に掲げて、覗き込むようにして見ていた。その位置がちょうどイズの目の高さだった。二人の視線がぶつかった。
「いず 〈イズ、何をしてるんだ〉」
突然父親の声が入ってきてイズの体は浮いた。戦兎は気配を察していた。
「 〈お父さん〉」
「 ?〈そいつの持っている物は何だ?〉」
「 …〈これ、こ、この人の…〉」
戦兎は二人のやり取りを見ていた。どうやらフルボトルの事を言っているらしいと手の仕草などであたりをつけた。
「 ?〈あんた、娘と何してたんだ?〉」
言葉に怒気が含まれているのが戦兎に感じられた。
「~~~~~~〈お、お父さん。ただ、この人の、物を〉」
イズのもたつく様を見て、イズはフルボトルの事を誰にも伝えてなかったのかも知れないと思った。
「 〈おいおいガルド。イズちゃんだって年頃なんだから親に内緒の事だってあるだろ。あんまり 〉」
「 〈ジール、お前は黙ってろ〉」
刃渡りの長いナイフをシンプルな木の鞘に納めながら、大男のジールが近寄ってきていた。
「 〈いやジールさん。何かこいつ怪しいですって〉」
小柄なロガもついてきていた。
「 〈そいつを見せてくれないか〉」
突然現れた男が、何でどうやって娘の関心を奪ったのか確認する必要があった。その権利が父親にはあると信じた。
「 〈おいガルド〉」
古い友人の言葉など届きはしない。
差し出された手のひらを見て戦兎は思った。頼まれているというよりは、命令の類いの感じだなと。
(まあ、通常は害のあるものでも無いからな)
普通に渡すことにした。何しろ助けてもらった上に食事などくれたりの恩があるのだし。
通常の動作だった。自分の手の中の物を相手の手に渡す。
(こんなものでイズを釣りやがって)
きらと陽を受けた透明素材の造りのフルボトルを見たガルドの感想はそんなものだった。
(な、なんだありゃ…)
何らかの仲裁もあるかもな、主にこの小さな人族のためにと慮ったジールは、ガルドの横に立っていた。そして人族がガルドに差し出そうとするフルボトルのあり得ない程の精緻な造りに、一瞬畏怖めいたものを覚えた。
イズが不安そうに止めさせようとしていた。
「 〈待てガルド 〉」
森林を照らし出した陽の中で、銀色で反射しているフルボトルは既に戦兎の手を離れていた。
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