魔王から婚約破棄&追放された令嬢が魔王の隠し子の人間に転生して魔王を倒すべく再び魔界へ乗り込む話

キョロ
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episode17. 六番組組長 扇 風之助

公開日時: 2021年9月5日(日) 08:22
文字数:3,327

「……大丈夫か?お前ら。」


狼男との戦いの後、俺達はこれまで通りに隊へと向かっていた。


「…うん。僕はもう平気。」


「私も大丈夫!さすがに驚いたけどね(笑!」


「私もだ、大丈夫っ!怖かったけど…」


「そっか。」


三人とも落ち着いてきたみたいだ。


…スタッ…スタッ…スタッ……

唯一変わった事と言えば先頭を清影が歩いている。地図を見ながら。

白石はデーモンハンターがいる家系だったから少しはデーモンに耐性があるみたいだけど、

陽斗と柚木はあんなにまともにデーモンと対峙するのは初めてだったらしい。


そのせいで暫く放心状態だった。

それを気にして・・ってことは無いか。

戦いの直後から何も言わず清影が先頭を歩いていた。


アイツなりの優しさなのか…?

いや、それはねぇな。どうせ足手まといと思って一人で向かってるだけだろ。

そんなこんなで数十分は歩いただろうか。


「………あれか。」


清影が呟いた。

目と鼻の先には建物が見えていた。


「やっと着いたぁ~!」


「何だかどっと疲れたね。」


「早く中入ろうぜ。」


俺達は中に入っていく。

庭園のような立派な建物。和な感じの造りに、昔の時代劇に出てくるような雰囲気だ。

入り口で陽斗が呼びかけた。


「すいませーん!」


すると奥から一人の女の人が出てきた。


「はーい!…あら。ひょっとして今年の新入生達かな?」


20代半ばぐらいの女性。

肩に掛かるぐらいの長さの髪に少しウェーブが掛かっている。

色は少し明るめの茶色。


「はい。六番組の隊ってここで合っていますか?」


「ええそうよ!いらっしゃい。"疲れた"でしょ?組長呼んでくるから少し休んでて!」


そう言うと、女性は飲み物を出してくれた。


「はぁ~とりあえず一安心ね!無事について良かった!」


「そうだね!」


「それにしても綺麗な建物だね。」


「確かに。デーモンハンターって儲かるのかしら?」


そんな会話をしていると奥から人が歩いてきた。


スタッ…スタッ…スタッ…スタッ…。

歩いてきたのは二人。どちらも男。


一人は170㎝後半ぐらいの身長に目にかかるくらいの髪の長さで銀髪。少しダラけたような覇気のない人。


もう一人は背が高く、180㎝以上余裕であろうというタッパ。銀髪の人より頭一個分以上高い。短髪の黒髪に髭を生やしている。


「…ここまでご苦労だったな新入生!」


黒髪の男が俺達に話しかける。

二人とも二十代後半から三十ぐらいだろうか?


「あ…初めまして!」


陽斗が慌てて立ちながら挨拶をし始めた。


「固いなぁ!まぁとりあえず座ってな。まず自己紹介しとくか!え~、俺はここ“六番組”の副組長『相良 鉄平(さがら てっぺい)だ!よろしくな!…んで、こっちのやる気なさそうなのがここの組長『扇 風之介(おうぎ かぜのすけ)だ!……おい!なんか一言言えよ!」


「あ~…今聞いた通りです。よろしく。」


扇は片手だけヒョイっと俺達に向かって挙げてきた。

こっちのやる気ないのが組長なのかよ。


「なんだその挨拶は。。まぁいい…こんな組長だけど宜しくなお前ら!」


「「「は、はい!」」」


陽斗、柚木、白石は礼儀正しく返事をした。

こういうとこでしっかり返事出来ないのが俺。。と、清影もか。。


「そっちの二人は反抗期か?ガキのくせにすかしてんじゃねよ。(笑!まぁ俺もお前ぐらいのときはそうだったな。」


ドスッ!

陽斗が俺の横っ腹に肘打ちしてきた。


「返事ぐらいしなよ光。」


「うるせぇなお前はいちいち…。橘光です!宜しくお願いします!」


俺は姿勢を正し、大袈裟なぐらい丁寧な挨拶をしてやった。陽斗への少しばかりの抵抗だ。


「知ってるよ!お前らの事は。」


「え?」


相良は俺達の名前を言い始めた。


「そっちのお嬢ちゃんから…白石天花。柚木真紀。橘陽斗。…飛んでお前が清影仁だな。

それで自己紹介通りお前が橘光。」


「あ、…はい。」


少し戸惑って返事をした。


「まぁ挨拶はこんなもんにして…さっきお前らの“戦闘”は見せてもらった。」


「「「――⁉⁉⁉」」」


さっき…??


「って事はあの“狼男”お前らの仕業か!」


「光!組長達に向かってお前らなんて失礼でしょ!」


「ハッハッ!威勢がいいな!それを戦闘で使えりゃもっと上出来だけどな!」


「……なっ…⁉」


痛いとこを突かれた。


「まぁお前は清影とは真逆だったな!清影は直に狼男を狙った…だけどお前はまず“仲間のところに”走ったー。どっちも正解だしとりあえず結果が全てだ。…先の戦闘で動けなかった三人!!」


陽斗、柚木、白石の三人を見る相良。


「まだ入学して何も分からないと思うが、さっきのでデーモンの“怖さ”は分かったはずだ。

……どうする?変わらずなりたいと思うか?デーモンハンターに。」


「「「…!」」」


三人は一瞬の沈黙の後、相良に答えた。


「…僕は変わらずデーモンハンターになりたいです!いや、絶対になります!まだまだ弱いけど、ここで引き返すなんて出来ません!」


「私も!さすがにさっきのはビビったけど。。私も強くなりたい!」


陽斗と白石の力強い言葉に相良も嬉しそうに頷く。


「うん。そうか!……柚木真紀。君はどうだい?」


「わ…私は………」


言葉に詰まる柚木。


「無理にならなくてもいいんだぞ?デーモンハンターなんて。

いつどんなデーモンに襲われるかも分からない、危険なものだ。」


「わ、私は………」


相良の忠告に気を留めることなく柚木は言ったー。


「私もっ……なります!!デーモンハンターに!…こんな自分を変えたいの!」


今まで聞いた柚木の言葉の中で一番力強かったー。


「よし!分かった!お前ら全員うちで預かる!」


「「「ありがとうございます!!」」」


三人は改めて決意を固めたようだ。


「いつまでくだらん青春ごっこをしているんだ?」


清影が割って入る。


「お前もなかなか偉そうだな(笑。清影仁君。」


相良が茶化すように笑いながら言った。


「そんな事よりもさっさと話を進めろ。次は何だ?」


「おいおい。そんな張り切って何がしたいんだよお前は(笑。まだ戦い足りないのか?

あいにく今日はこれでお終い!皆ゆっくり休みな!」


「あんなのウォーミングアップにもならん。デーモンハンターを育ててるソウルアカデミーがこんな低レベルだとは。」


「確かに君もそこそこ出来るけど、まだ下級クラスだな!」


「…⁉⁉」


「何驚いてんだ?自分は強いと“自惚れて”たか(笑?」


「お前も口だけで偉そうだな……こんな緩い学校で世話してるなんて実力の底が知れる。」


清影は魂力を練り出したーー。


「いいぜ。清影君!若くて体力有り余ってるみたいだから軽~~く遊んでやるよ(笑。」


ブチンッッ!!!


相良の挑発にキレた清影が突っ込むーー。


…ダッ!!ーーーーーーーーー。


一歩踏み出そうとした瞬間ーー。


…………ファッ………………!!


「はい!俺の勝ち!」


「――⁉⁉⁉⁉」


全く見えなかったー。

いや、何が起こったかさえ理解出来ない。

7、8メートルは離れていた相良と清影。

それが一瞬で相良が清影に背後に立ち、清影の肩を組んで見せたーー。


「元気があんのはいいけどよ、もう少し仲良く行こうぜ。な!」


ポンポンッっと軽く清影の背中を叩く相良。


「……!」


さすがの清影も驚きを隠せない。

だが、プライドの高さゆえに認めようとしない。


「……ま、待てッ!!まだ終わってねぇだろうが…!!」


「かぁ~~。諦めの悪い男だねぇ。」


相良も清影の対処に少し困りを見せた。


その時ーー。


ゾゾゾゾッ……………!!!!


「「「「「……⁉⁉⁉⁉」」」」」


全員が悪寒を感じ取ったー。

その気配のする方を見ると、そこにいたのはーー。


「もう面倒だからそのへんにしとけ。」


組長。扇 風之介。


銀髪の髪から切れ長の目がこっちを見ている。

相変わらず気怠そう。

だが俺達でも分かる圧倒的な力の差。

刺すような魂力が感じ取れるー。


「ハッハッ!組長の命令だ!今日はこれにてお開き!解散!」


相良が言った。


【へぇ~。人間のくせに凄い魂力じゃない。さすが組長さん。】


魂力を感じたリリスが出てきた。


【やっぱやべぇよなあの人…】


俺も一瞬で理解したー。


組長は強いーー。


【ルシファー倒すのに強力な駒ね♪】


おいおい……。



光とリリスがそんな会話をしている一方、扇はー。


(………アイツがルシファーの子か。)


真っ直ぐ光を見ていたーー。




これが、六番組隊長「扇 風之介」と副組長「相良 鉄平」との出会いー。



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