「……大丈夫か?お前ら。」
狼男との戦いの後、俺達はこれまで通りに隊へと向かっていた。
「…うん。僕はもう平気。」
「私も大丈夫!さすがに驚いたけどね(笑!」
「私もだ、大丈夫っ!怖かったけど…」
「そっか。」
三人とも落ち着いてきたみたいだ。
…スタッ…スタッ…スタッ……
唯一変わった事と言えば先頭を清影が歩いている。地図を見ながら。
白石はデーモンハンターがいる家系だったから少しはデーモンに耐性があるみたいだけど、
陽斗と柚木はあんなにまともにデーモンと対峙するのは初めてだったらしい。
そのせいで暫く放心状態だった。
それを気にして・・ってことは無いか。
戦いの直後から何も言わず清影が先頭を歩いていた。
アイツなりの優しさなのか…?
いや、それはねぇな。どうせ足手まといと思って一人で向かってるだけだろ。
そんなこんなで数十分は歩いただろうか。
「………あれか。」
清影が呟いた。
目と鼻の先には建物が見えていた。
「やっと着いたぁ~!」
「何だかどっと疲れたね。」
「早く中入ろうぜ。」
俺達は中に入っていく。
庭園のような立派な建物。和な感じの造りに、昔の時代劇に出てくるような雰囲気だ。
入り口で陽斗が呼びかけた。
「すいませーん!」
すると奥から一人の女の人が出てきた。
「はーい!…あら。ひょっとして今年の新入生達かな?」
20代半ばぐらいの女性。
肩に掛かるぐらいの長さの髪に少しウェーブが掛かっている。
色は少し明るめの茶色。
「はい。六番組の隊ってここで合っていますか?」
「ええそうよ!いらっしゃい。"疲れた"でしょ?組長呼んでくるから少し休んでて!」
そう言うと、女性は飲み物を出してくれた。
「はぁ~とりあえず一安心ね!無事について良かった!」
「そうだね!」
「それにしても綺麗な建物だね。」
「確かに。デーモンハンターって儲かるのかしら?」
そんな会話をしていると奥から人が歩いてきた。
スタッ…スタッ…スタッ…スタッ…。
歩いてきたのは二人。どちらも男。
一人は170㎝後半ぐらいの身長に目にかかるくらいの髪の長さで銀髪。少しダラけたような覇気のない人。
もう一人は背が高く、180㎝以上余裕であろうというタッパ。銀髪の人より頭一個分以上高い。短髪の黒髪に髭を生やしている。
「…ここまでご苦労だったな新入生!」
黒髪の男が俺達に話しかける。
二人とも二十代後半から三十ぐらいだろうか?
「あ…初めまして!」
陽斗が慌てて立ちながら挨拶をし始めた。
「固いなぁ!まぁとりあえず座ってな。まず自己紹介しとくか!え~、俺はここ“六番組”の副組長『相良 鉄平(さがら てっぺい)だ!よろしくな!…んで、こっちのやる気なさそうなのがここの組長『扇 風之介(おうぎ かぜのすけ)だ!……おい!なんか一言言えよ!」
「あ~…今聞いた通りです。よろしく。」
扇は片手だけヒョイっと俺達に向かって挙げてきた。
こっちのやる気ないのが組長なのかよ。
「なんだその挨拶は。。まぁいい…こんな組長だけど宜しくなお前ら!」
「「「は、はい!」」」
陽斗、柚木、白石は礼儀正しく返事をした。
こういうとこでしっかり返事出来ないのが俺。。と、清影もか。。
「そっちの二人は反抗期か?ガキのくせにすかしてんじゃねよ。(笑!まぁ俺もお前ぐらいのときはそうだったな。」
ドスッ!
陽斗が俺の横っ腹に肘打ちしてきた。
「返事ぐらいしなよ光。」
「うるせぇなお前はいちいち…。橘光です!宜しくお願いします!」
俺は姿勢を正し、大袈裟なぐらい丁寧な挨拶をしてやった。陽斗への少しばかりの抵抗だ。
「知ってるよ!お前らの事は。」
「え?」
相良は俺達の名前を言い始めた。
「そっちのお嬢ちゃんから…白石天花。柚木真紀。橘陽斗。…飛んでお前が清影仁だな。
それで自己紹介通りお前が橘光。」
「あ、…はい。」
少し戸惑って返事をした。
「まぁ挨拶はこんなもんにして…さっきお前らの“戦闘”は見せてもらった。」
「「「――⁉⁉⁉」」」
さっき…??
「って事はあの“狼男”お前らの仕業か!」
「光!組長達に向かってお前らなんて失礼でしょ!」
「ハッハッ!威勢がいいな!それを戦闘で使えりゃもっと上出来だけどな!」
「……なっ…⁉」
痛いとこを突かれた。
「まぁお前は清影とは真逆だったな!清影は直に狼男を狙った…だけどお前はまず“仲間のところに”走ったー。どっちも正解だしとりあえず結果が全てだ。…先の戦闘で動けなかった三人!!」
陽斗、柚木、白石の三人を見る相良。
「まだ入学して何も分からないと思うが、さっきのでデーモンの“怖さ”は分かったはずだ。
……どうする?変わらずなりたいと思うか?デーモンハンターに。」
「「「…!」」」
三人は一瞬の沈黙の後、相良に答えた。
「…僕は変わらずデーモンハンターになりたいです!いや、絶対になります!まだまだ弱いけど、ここで引き返すなんて出来ません!」
「私も!さすがにさっきのはビビったけど。。私も強くなりたい!」
陽斗と白石の力強い言葉に相良も嬉しそうに頷く。
「うん。そうか!……柚木真紀。君はどうだい?」
「わ…私は………」
言葉に詰まる柚木。
「無理にならなくてもいいんだぞ?デーモンハンターなんて。
いつどんなデーモンに襲われるかも分からない、危険なものだ。」
「わ、私は………」
相良の忠告に気を留めることなく柚木は言ったー。
「私もっ……なります!!デーモンハンターに!…こんな自分を変えたいの!」
今まで聞いた柚木の言葉の中で一番力強かったー。
「よし!分かった!お前ら全員うちで預かる!」
「「「ありがとうございます!!」」」
三人は改めて決意を固めたようだ。
「いつまでくだらん青春ごっこをしているんだ?」
清影が割って入る。
「お前もなかなか偉そうだな(笑。清影仁君。」
相良が茶化すように笑いながら言った。
「そんな事よりもさっさと話を進めろ。次は何だ?」
「おいおい。そんな張り切って何がしたいんだよお前は(笑。まだ戦い足りないのか?
あいにく今日はこれでお終い!皆ゆっくり休みな!」
「あんなのウォーミングアップにもならん。デーモンハンターを育ててるソウルアカデミーがこんな低レベルだとは。」
「確かに君もそこそこ出来るけど、まだ下級クラスだな!」
「…⁉⁉」
「何驚いてんだ?自分は強いと“自惚れて”たか(笑?」
「お前も口だけで偉そうだな……こんな緩い学校で世話してるなんて実力の底が知れる。」
清影は魂力を練り出したーー。
「いいぜ。清影君!若くて体力有り余ってるみたいだから軽~~く遊んでやるよ(笑。」
ブチンッッ!!!
相良の挑発にキレた清影が突っ込むーー。
…ダッ!!ーーーーーーーーー。
一歩踏み出そうとした瞬間ーー。
…………ファッ………………!!
「はい!俺の勝ち!」
「――⁉⁉⁉⁉」
全く見えなかったー。
いや、何が起こったかさえ理解出来ない。
7、8メートルは離れていた相良と清影。
それが一瞬で相良が清影に背後に立ち、清影の肩を組んで見せたーー。
「元気があんのはいいけどよ、もう少し仲良く行こうぜ。な!」
ポンポンッっと軽く清影の背中を叩く相良。
「……!」
さすがの清影も驚きを隠せない。
だが、プライドの高さゆえに認めようとしない。
「……ま、待てッ!!まだ終わってねぇだろうが…!!」
「かぁ~~。諦めの悪い男だねぇ。」
相良も清影の対処に少し困りを見せた。
その時ーー。
ゾゾゾゾッ……………!!!!
「「「「「……⁉⁉⁉⁉」」」」」
全員が悪寒を感じ取ったー。
その気配のする方を見ると、そこにいたのはーー。
「もう面倒だからそのへんにしとけ。」
組長。扇 風之介。
銀髪の髪から切れ長の目がこっちを見ている。
相変わらず気怠そう。
だが俺達でも分かる圧倒的な力の差。
刺すような魂力が感じ取れるー。
「ハッハッ!組長の命令だ!今日はこれにてお開き!解散!」
相良が言った。
【へぇ~。人間のくせに凄い魂力じゃない。さすが組長さん。】
魂力を感じたリリスが出てきた。
【やっぱやべぇよなあの人…】
俺も一瞬で理解したー。
組長は強いーー。
【ルシファー倒すのに強力な駒ね♪】
おいおい……。
光とリリスがそんな会話をしている一方、扇はー。
(………アイツがルシファーの子か。)
真っ直ぐ光を見ていたーー。
これが、六番組隊長「扇 風之介」と副組長「相良 鉄平」との出会いー。
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