ゆんゆん・ザ・ウィザード・スーパースター

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公開日時: 2023年9月7日(木) 22:00
文字数:5,626

 ペジテ市侵攻五十八時間後。

「何だかもうここで生きていける感じすねー」

「馬鹿か」

 背の高い隊員の言動に隊長は呆れた。

「や、だってこんな快適な所他に在りませんて」

「そうだよなー」「ここで暮らせねーかなー」

 他の隊員も同調してきた。



 最初閉じこめられた時は皆かなり動揺していた。

「なんだこの扉!全然開けられないぞ!」 

「ゆんゆん起こしちゃうか?」

「ヤバいって」

 ゆんゆんを置いていけないし待機することになった。

 壁にある扉らしきものを開けていった。食料が備蓄されていた。というか栽培されていた。ワズルとゆんゆんの分でも食事は当分心配することは無さそうだった。調理場もあった。きれいな水がどれだけでも出てきた。別のドアにはお湯の出るシャワーも完備。トイレも清潔だった。新しいタオルもあった。着替えはゆんゆん用の物だけだった。すべて女物で名前が書いてあった。

「上、静かになったみたいですね」

 副隊長が言った。

「ああ。さっきゆんゆんに起きた事が関係していると思うか」

「たぶん。ペジテに何があったのか分かれば良いんですが」

「だな。とにかく我々はゆんゆんの事を守らなければな」

「こっちが守られてる感じしか無いですけどね」

「言えてるな」

 二人はカプセルの中で眠りに入ったゆんゆんを見た。



「こんだけ揃ってるのに酒は無いんだよなー」

「ゆんゆんが未成年だからだろ。彼女の為の部屋なんだろうしな」

 副隊長が金髪をかきあげて調子の良いことばかり言う背の高い隊員に言った。

 ワズルの隊員たちは上半身の武装だけを解いた姿でリラックスして床に座っていた。

「大人でもこんなところに一人じゃ酒に頼りそうでヤバいかも」地味な隊員が言った。

「一人か‥‥。ゆんゆんはずっと一人で待ってたんすかね、誰かが来るのを」一番小柄な隊員がカメラをいじりながら呟く。

「たぶんな」隊長が答えた。

「俺、ゆんゆんと友達になろうかな」背の高い隊員が言った。

「ばっ!お!そういう方じゃないんだぞ!」

「でも隊長。かわいそうじゃないすか」

「それにゆんゆん可愛いよね」

 地味なやつが核心を突いた。

「だよなー。すげー美人になりそう」

「や、今すでに可愛すぎだろ」

「俺絶対友達なるわ!」

 密かに思っていたことが溢れ出す。もう思い残す事無く言っとくわという雰囲気になっていた。

「お、お前らいい加減に   

 自分も年頃の娘がいる隊長は他人事に思えなかった。

「副隊長ー。ゆんゆんに声かけて下さいよー」

「そーだなー」

「おい!」

 副隊長は金髪でなかなかに男前だった。

「結局、副隊長頼みなのなー」

「だって、可愛すぎて緊張するじゃんよ」

「確かに」

 ナンパ部隊になっていた。




「‥‥‥‥‥」

 ゆんゆんは起きていた。

 さすがにトイレとか行きたくなってきて覚醒していた。

 外の会話も全部ばっちり聞こえていた。

(あ、私が、か、可愛い~?)

 口がもにょもにょと緩むのを止められない。

(私と、友達に   

 喜びで溢れそうになる。

(う    

 気を抜くと下半身が溢れる。

(もう、行かなきゃ   

 そう思っただけでケースがガコと動き出した。

(ひっ!心の準備が   

 すーとケースが開いていった。

「あっ!」

 平隊員達が慌てていた。

 今しがた、ゆんゆん良いわーとか言っていたのでビビった。いざ対象を目の前にするとしり込みしてしまった。

 ゆんゆんもせっかくのチャンスを逃さないようにしたかった。しかし生理現象は待ってくれない。トイレの場所は知っていた。しかし、二日も魔力切れで昏睡にあったので足元がふらふらだった。

「大丈夫?」

 副隊長が支えてれた。

「あ、はい   

 無事トイレに行けた。



「ゆんゆん。ここから出られるのだろうか?」

 ゆんゆんも一緒に皆で食事しながら隊長が聞く。

「はい‥‥。たぶん‥‥」

「何か問題が?」

「その‥‥‥」

「うん」

「その‥‥」

「ゆんゆん大丈夫。何でも言って良い」

「はい」ゆんゆんは頑張った。顔が熱くなり目が潤み始めた。「み、皆さんが、あ、私と、友達になってくれたら   

「友達に?」隊長が不思議そうに聞くと、こくこくとゆんゆんが頷いた。

「もちろん良いよゆんゆん。むしろ僕らの方から友達になって欲しいと思っていたよ」副隊長がきらきらした笑顔ですらすら言った。ゆんゆんはハッとして顔をあげた。「よろしくゆんゆん」副隊長が右手を差し出してきた。ゆんゆんはその手をじっと見て副隊長の顔をうかがった。副隊長はにこりと笑った。恐る恐る手を少し握った。顔はきれいな人だけれど手はごつごつしてて兵隊さんの手だと思った。守るべきものがあり、それを成し得る事が出来る良い手だと思った。

「あー、俺も俺も!」「ゆんゆん、俺とも」「今度皆で遊びに行こう!」

 家族以外で初めてちやほやされてたまらないとゆんゆんは思った。

「おい!お前ら、ゆんゆんが怖がってるんじゃないだろうな?」

「大丈夫です」このチャンスを逃すものかとゆんゆんは思っていた。「隊長さんもお願いします   」そう言ってゆんゆんは自分から手を差し出した。ゆんゆんにしてみれば人前で裸になるくらいの大胆な行為だった。

「え?良いのかい?」

「隊長ー、まさか奥さんがいるからとか考えてるんじゃないですよねー」「やらしー」

「ばっ馬鹿もんっ!」

「あの、普通に友達で‥‥‥」ゆんゆんは少し手を引っ込めたい気持ちと戦った。

 ゆんゆんは可愛くて歳の割りに育っていた方なのでおじさんがどきどきしちゃうのも無理なかった。

「うむ。よろしくゆんゆん」隊長は威厳を取り戻して握手した。「いつかうちの娘とも友達になってあげてくれ」

「はい」

 ゆんゆんは幸せな気持ちで心がいっぱいになった。

 ガコンっと音がして隔壁扉が上に上がりだした。

「おおっ!本当に開いた!」

「よし!外に出られるぞ!」

「準備急げ!」

「ゆんゆんありがとう」

 副隊長は自然な動作でゆんゆんの頭を撫でた。



「そうだ!記念に写真撮ろう!」

 カメラを持った隊員が進発準備の済んだ時に言った。

「良いね」

 ゆんゆんを真ん中にしてカプセルの後ろに並んだ。

 組み立てた三脚の上に乗っているカメラのセルフタイマーがたてるジーっという音だけがする。皆レンズに視線を向けている。

(一度にこんなに友達が出来るなんて)ふふふふとゆんゆんは頬が緩んでくるのを堪えられなかった。(でもおじさんや大人の男の人ばかりだからめぐみんならきっと怒るかも)タイマーはジーと音をたてている。

(めぐみん‥‥。何処かにいるのかな‥‥)

 急に不安で寂しい気持ちになった。

 パシャリとカメラのシャッターが下りた音がした。




 隊長を先頭に、入るときに吹き飛ばした扉を越えて通路を進んだ。カタツムリの殻のような作りの通路を半分くらい進んで上に出た。

「ここは   

 下と違い、暗くてひどく散らかっているようだった。懐中電灯で照らされた部分がやけに強調されてゆんゆんの心を落ち着かなくさせた。

「ライト!」

 ゆんゆんがそう言うと翡翠のような火の玉がゆんゆんの手の中から出てきて天井近くに浮かんだ。清潔な灯りが室内を存分に照らした。

    !」

 体を堅くしたゆんゆんの肩を副隊長がそっと抱いた。

「もともとこの部屋の探索に来たんだ」

 ゆんゆんは怯えた顔でワズルの隊員を横目で見た。

「俺たちが入った時にはもうこうなっていた」

 隊長が言った。

「本当に‥‥‥」

 ゆんゆんの声は消えそうなほど小さかった。引き返してあの安全な部屋に避難しようかという考えも頭をよぎった。

「ほ、本当だよ」「そうそう。信じてよ」

 他の隊員が必死に訴えた。

 そんな声が遠くなっていく。

 ゆんゆんの思考は散らかった室内の真ん中にある物に吸い寄せられていく。

「これ   

 それの前に立ったゆんゆんに、

「君が眠っていた装置ほど洗練されていないが、それでも同じ目的の物のように感じる」

 ゆんゆんにもすぐにそうだと分かった。だとしたら私みたいに誰かが     

    そんな」

 反対に回り込んだゆんゆんが両手を口にあてて、瓦礫の上に膝をついて座り込む。

「読めるのかい?」

 装置の台座の部分にプレートが埋め込まれてある。トルメキアやペジテで使われているような文字とは全く異なっている。

「“めぐみん”    

「知り合いかい?」隊長が聞く。

「めぐみんはどこなの‼️」 

 それには答えず、ゆんゆんは立ち上がる。その瞳が紅く光りフル装備のワズルの男たちを捉えている。

「めぐみん?」

「そう!ここに書いてある!めぐみんは何処にいるのっ!」

「いや、俺達が来たときにはもう    

「でもいると思っていたから来たんでしょ!めぐみんがっ!知ってたんでしょ!」

 紅い瞳をぼうと光らせてゆんゆんが叫ぶ。緑色の発光体の光量が不安定に揺れる。男達の影が瓦礫に浮かんだり闇に沈んだりする。

「俺達はペジテで発見された最終兵器の捕獲に来た」

 隊長が答えた。

「兵器   。めぐみんを   

 ゆんゆんの回りの空気がちりちりと熱をおびる。

「どういう物かはまでは分かっていなかったんだ。まさか君みたいな少女だなんて   

「そんなの見れば分かるじゃないの!あんなに可愛いのに分からないなんてあり得ないよ!」

 ワズルのボディアーマー越しにも熱が伝わってくる。

「待ってくれゆんゆん!伝えられた情報によるとカプセルの中に卵か繭のような物が入っていたと言うんだ。その台座、大きさが君のよりだいぶ小さいだろ?」

 ゆんゆんは言われて台座に目をやった。

「君の友達はこんなに小さな子なのかい?」

「え!めぐみんは友達っていうんじゃなくて、その、ライバル?でも、少しは友達かも知れないかな‥‥?いつも一緒についてきてたし‥‥え?これってやっぱり友達でも良いのかな    

 何か拗れてきそうな気配がした。

「あー、ゆんゆん?どうしたんだい?その、このサイズだと君の友達とやらは    

「だから!めぐみんは友達ぢゃなくてライバルなんです(>_<)!」

 そんなに重要なのかと思いつつ隊長は、

「え、あ、うん。分かった。分かったよ。ライバルのめぐみんね。その、我々はめぐみんがまだきちんと君みたいに成る前に、ペジテが何処かへ移動させたんじゃないかと考えてるんだ」

「え?」ゆんゆんにもようやく分かってきた。「あ、赤ちゃんのめぐみん   

 ゆんゆんの頬に赤みが指して緩んできた。愛らしい少女の微笑みを見て、隊長は何故だか寒気を感じた。

「そう、言うことかな。見た感じここの方が設備が整ってるように思う。しかし、ペジテの奴らはここを放棄した。幼体と思われるめぐみんが心配だ」

「!‥‥めぐみん   」ゆんゆんの瞳が開かれる。「早く、めぐみんを見つけないと!」

 外への通路に駆け出そうとする。

「ゆんゆん、協力して探しだそう」

 ゆんゆんは振り返り、男を睨んだ。

「あなた達だって、めぐみんを兵器として使いたいんでしょ」男達に向き合った。「ここの人達と一緒じゃない!友達だって言ってくれたのに    

 ゆんゆんの目から光が消えた。

「ゆんゆん聞いてくれ。確かにトルメキアもここで見つかった物を利用しようと考えた。そして我々が来た。でも君を見つけて、こんな少女が最終兵器だと知ってショックを受けた。間違ってると思った」隊長が後ろを向いて部屋の片隅を見た。「彼も同じように考えたのだろう」死体が丁寧に横にされていた。

「我々の仲間だったんだ。優秀さを買われて潜入していた。恐らくペジテの奴らに反対したのだろう」

「そんなこと‥‥。ただ失敗したんじゃ  ‥‥」

「あいつは、ここに来る前に子供が産まれていた」隊長はじっと死体を見つめていた。「今年二歳になる女の子が    

 他の隊員達は俯いていた。

「あいつが君の所へ行けるヒントを残しておいてくれた」

「‥‥‥‥」

「まだゆんゆんの友達でいられるチャンスを俺達にくれないか    

 ゆんゆんは今の言葉がかなりぐっと来てしまった。

「うう‥‥‥」

「それにいくらゆんゆんが優秀で可愛くても独りだといろいろ大変だと思うんだ」

 副隊長がここぞとばかりにパワーワードを差し込んできた。

「優秀‥‥‥」

「ゆんゆん、君の助けになりたいんだ」

 隊長をずいとどかしてきらきらした副隊長がゆんゆんの目の前に立った。警戒されないぎりぎりの間合いまで顔を近付ける。副隊長の独壇場になった。夢見る年頃のゆんゆんは一瞬めぐみんの事を忘れてぽやんとなった。

「えええっと」

「ゆんゆん」

 もう一つとばかりにゆんゆんの手を取った。

 かくかくとゆんゆんは首を縦に振った。

「ありがとう、ゆんゆん」

「いえ    

 これはめぐみんを探し出すため。そう自分に言い聞かせていた。




「これは    」 

 ワズルの男達はセンタードームの崩れかけた入り口を出て広場を見下ろしていた。砂漠の夜の町を月が青く照らしていた。蟲が食い破ってきた跡に月の光が溜まっていた。影によって崩れた家々の瓦礫が立体的に浮かんでいた。

「酷い   」ゆんゆんが泣きそうになっていた。「まさかおじさん達が    ?」

「まさか!絶対に違う」「むしろ助けていたんだよ」「あれを見てゆんゆん。炊きだしとか、トルメキアのキャンプが設営されていた跡だよ」

 蛇の絵が入った気色の悪い国旗がぼろぼろになって地面に落ちている。

 突然眩しい光に包まれる。大きなエンジン音も響く。

「コルベット!」

 地味隊員が叫んだ。

「ゆんゆんを囲め!」

 コルベットに向かって合図を送りつつ、ワズルはゆんゆんの事を第一に守った。

 ゆんゆんは台座からむしり取っためぐみんの名前が刻まれたプレートを大事そうに胸に抱えていた。




「待っていて良かったです」 

 機長がコルベットに乗り込んだ隊長に言った。

「クシャナ殿下からずっと待機しているようにと命令を受けていました」

「殿下が   

 隊長と隊員達は胸がいっぱいになった。

「トルメキア軍は一人も置いていかない、と」

 機長はそう言うとコックピットへ下りていった。

   殿下なら、分かってもらえるかもしれない。

 自分たちの新しい友人の願いを叶えたいと思った。彼女は、ずっと地下から持ってきた金属板を愛しそうに撫でている。

「めぐみん    

 彼女が金属板に刻まれた自分の友人の名前を呟いた。

「アクセル    

 その友人の名前と一緒に書かれている名前を続けて呟いていた。町の名前だと彼女は教えてくれた。


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