「キャッチボールゥ?」
俺の提案に、すごく嫌そうな顔を浮かべる。
「うん」
「何言うとんねん」
こんな時間に、どこで?
大体そんなところだろう。
わかるよ?
無理な相談なのは。
「…いや、その」
何を言えばいいかわからなくなった。
提案したのはいいが、唐突すぎるもんな。
自分でも何言ってんだ、って思うよ?
…だけどさ
「すぐそこの海岸やったら、明かりもついとるやん?」
「はぁ??」
…そんな顔すんなよ。
まあ、しょうがないか。
明かりがついてるって言っても、視界はだいぶ悪い。
普通はしないよな?
部活終わりで、腹も減ってるだろうし。
「ちょっとだけでええから」
自分でもよくわからなかった。
キャッチボールなんていつでもできる。
今じゃなくても、明日の日中にやればいい。
…だけど、理屈じゃなくてさ?
「ちょっとだけ…って、何をするん?」
「せやから、キャッチボール」
めちゃくちゃ嫌そうだ。
相変わらず、顔にすぐ出るタイプだな。
昔から。
にしても、そんな険しい顔にならんでも…
「やっぱ頭イカれとるやんけ」
「イカれとらんわ」
「今、忙しいんやが?」
「部活終わったんやろ?」
「終わりましたけど?」
「で、帰宅途中と」
「何が言いたいねん」
「今暇やろ?」
「忙しい言うとるやんけ」
絶対忙しくないだろ。
…と、言いたいところだが、本当に忙しいのかも。
子供の頃とは違うんだ。
っていうか、昔は逆だったよな?
俺がどんだけ拒否っても、絶対に付き合わされてたもん。
俺の言うことなんて聞きゃしなかった。
どんだけ、忙しいって言おうが。
「な?頼むわ」
「キャッチボールなんて、いつでもできるやろ」
…うう。
おっしゃる通りです。
でも、俺にとっちゃそうじゃない。
確かにいつでもできるけど、…でも
いつからやってない?
そんなことをいちいち考えなくても、懐かしい気持ちがそばにある。
いつでもできるわけじゃないんだ。
本当は。
…多分。
わかんないけど…
こうして気軽に頼むことすら、当たり前じゃないと思える。
明日になったら、とか、もう夜だから、とか。
そんな悠長なことを言ってる場合じゃない。
だろ?
「はよ帰るで?」
まるで、本当に何もなかったみたいに、彼女は涼しい顔をする。
それを当たり前だとは思えなかった。
だからここに来たんだ。
どんなに考えたって不安になる。
どこに行っても、どんな景色を目の当たりにしても、——結局。
だったらこの場所で、俺たちがいたこの海で、しばらく過ごそうと思った。
気が済むまで。
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