「いい?想像するんやで?」
…想像?
って何を?
「無数にある世界線の一つ一つは、常に不安定な流域の中にある。今、この瞬間にも新しい世界が生まれて、時間とその波の境界にすれ違うあらゆる「可能性」が、新しい時間に触れ、明日への扉を開こうとしてる」
明日…?
「私たちは常にその真ん中にいる。今という限りない瞬間に選択できる“権利”を持ち、たった一度しかないそのタイミングを、手を伸ばした指先にかけようとしてる」
…ふむ?
「だから、想像するんや。もう“間に合わない“、”できない”と思う感情を一切捨てて、自分なら、どこにでも行けると」
指先に触れる微かな感触を感じた。
それは“イメージ”なんかじゃなかった。
手に触れる確かな肌触りと、温もり。
動き出した電車のそばで、女が俺の手を握っていた。
時間が止まりかけてしまいそうなほど、電車の車輪はゆっくりと加速し始めた。
しんと静まり返った一瞬の暇を解くように、地面が揺れる。
間に合わないかもしれないと思うこと。
そんな感情の矛先を、今すぐにどうにかしたいとは思えなかった。
今までたくさんあったんだ。
諦めそうになったこと、諦めたこと。
でもそれがなんだ、って、その度に思った。
いちいち自分の感情に振り回されてたらキリがないと、いつも思えたからだ。
それは今も同じだ。
辿り着けないと思うことがある。
…もう、触れることができないと思うことさえ。
進んでいく電車の機体に揺らされ、足元がグラつく。
手すりに掴まってないとコケそうになるくらい。
目を瞑ってると、電車がどっちに進んでるのかもわからなくなった。
行き先は三ノ宮みたいだが、“切符”に意味はないそうだ。
問題は“気持ち”だそうだった。
…なんだよ、「気持ち」って。
思わず突っ込みそうになったが、やめにした。
いつまで目を瞑っていればいいのかもわからないまま、女は強く握りしめてきた。
「一緒にジャンプするぞ!」
と、それだけを口にして。
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