「素朴な質問なんやけど…」
「何?」
聞きたいことがあった。
丘を下る坂道の上で、自転車に乗りながら。
「俺たち、一緒に通ってるん?」
小学生の頃、徒歩で一緒にバス停まで行ってた。
バスに乗って学校に行き、帰りは、近くの公園でキャッチボールをして。
あの頃の時間が、俺の中で止まっている。
夢の中で時々見るんだ。
大きく振りかぶる彼女のシルエットや、俺の前を歩いていく姿。
“いつか”
その言葉の向こう側にある夏の景色を、俺はまだ知らない。
だから自然と出た。
純粋に聞きたかった。
俺たちは俺たちのままなのか、って。
「昨日から怖いで?あんた」
「…すまん」
「一緒に通ってるかって?」
「お、おう」
「見ての通りや」
う、うん…?
見ての通り?
つまり、…そういうこと?
わからないからもう一回聞いた。
そしたら、やっぱり一緒に通ってるみたいだった。
「いつから…?」
「はあ?そんなん覚えとらん」
俺は覚えてる。
忘れるわけない。
小学3年の時だ。
いじめが原因で学校を休んでた俺に、声をかけてきた日のことを。
「俺は覚えとるで」
「はいはいそうですか」
「ほんま、懐かしいわ」
「何浸っとんねん…。怖」
そりゃ浸るだろ。
もう5年以上経つんだ。
ずいぶん昔のことに感じる。
あの頃、俺はまだ外の世界を知らなかった。
「外」っていうか、“背伸びできる瞬間”っていうか。
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