ガラッ!
勢いよく病室を開けた。
カーテンが、部屋の中央にかかっている。
いつもと同じ光景だ。
殺風景な部屋の間取りに、使われていないテレビとリモコン。
エアコンは24時間付けっぱで、冷たいくらいに空気が涼しい。
部屋の中に入ろうとする俺の手を、彼女は引っ張った。
お互いに息切れがして、肩から息を吸っていた。
「おい!何しにきたんや」
「ここにおる」
「は?!誰が??」
「千冬が…」
驚いた顔をして、俺を見ていた。
“病室の中にいる”
それが“誰”かを、できるだけまっすぐ伝えたんだ。
キミが誰でも、「桐崎千冬」という名前だとしても、ここにアイツがいる。
世界で、…たった1人の——
カラカラカラ
そっと開いたカーテンが、勢いのままに揺れている。
分厚いドレープと、薄いレースのカーテン。
ベットに横たわっている人が誰かを、カーテンを開けなくてもわかるはずだった。
背の低い丸椅子。
無機質な音を鳴らしている、心電図のモニター。
壁に掛けられているカレンダーは、写真も何もないモノクロなデザイン。
いつもそうだった。
重いカーテンを開けば、確かな質感を持つ「現実」が、そこにはあった。
どこか湿っぽくて、どうしようもないくらいに静かな日常が、深いぬかるみの上に広がるように。
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