ジャリッ…!
地面と靴が擦れる音が聞こえ、女の影が飛び立つように視界の片隅に動いた。
海と街とを横断する線路。
遮断機のポールは、その真ん中にあった。
赤いランプが、線路とその内側の境界を隔てながら。
——誰だってわかることだった。
その“向こう側”に行けないことは。
ドンッ…!
地面の底を掴んだスニーカーの底が、一瞬の間変形する。
それは踏み込んだ足の力が、つま先の先端に触れて、重力の流れていく方向を掴んでいたからだ。
前に進んでいこうとする力が、地面の外側へと脱出しようとする。
重力が地面にぶつかる時間差は、ほとんどなかった。
ただ、前のめりになった女の体が、空中に解き放たれたように“波”の中を動いていた。
躍動する時間。
交錯する実体と影。
自分が目にしているものが何かを、すぐに理解することはできなかった。
だって女は、白線の“内側”へと行こうとしていたんだ。
勢いのままに飛び出した足を伸ばし、ポールの向こう側へ。
え……!?
と、視点が止まった。
しかしその時にはもう遅かった。
女は線路の上に立っていた。
猛然と近づいてくる電車の目の前に。
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