雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第259話

公開日時: 2023年7月13日(木) 19:35
文字数:1,094


 「時間は常に前に進んどる。せやから、一度過ぎ去ったものを、元に戻すことはできん」


 「…なにが言いたいんや?」


 「あんたの知っとる“キーちゃん”は、この世界にはおらん。あんたがどれだけ会いたいと思っても、1つの現実を、そう簡単に変えることはできん」



 そんな…ばかな。


 意味がわからない。


 だって現に、こうして…



 「千冬はここにおるやんけ!お前俺に、千冬を助けるって言うたよな?助けるために、この世界に連れてきたんやろ!?」



 女は首を横に振る。


 半ば、不安そうな面持ちで。


 じゃあこれはどういうことだよ!?


 この「世界」は!?


 彼女は??


 “助ける”って、つまりそういうことだろ!?



 「たしかにここは、キーちゃんが事故に遭わんかった世界線や。せやけどあんたが言うように、キーちゃんを助けるためにここに連れてきたわけちゃう」


 「…どういうことや??」


 「ここはあくまで可能性の1つに過ぎん。つまり、あんたがおる世界とは、ある意味無関係な世界や」



 無関係…って?


 助けるためじゃない?だって?


 …どういうことだ?


 ってか、そもそも俺が聞いてんのは、目の前に千冬がいるってことだ。


 ここがどんな世界かは知らないが、その事実に変わりはないだろ。


 だから——



 「キーちゃんはここにはおらん。少なくとも、あんたの隣には」



 言ってる意味がわからない。


 千冬が…いない?


 何言ってんだ?


 ちゃんと目ぇついてんのか?


 どう考えても今、目の前に——




 ゴオオオオオオオオ…




 耳を疑うような轟音が、海の方から聞こえてきた。


 風は無い。


 空の流れも。


 空気の乱れも。


 まだ、——どこにも。


 足元が揺れる。


 視界がグラつく。



 …地震?


 …いや、でも、まさか——




 ドドドドドドドッ




 立ってるのもやっとなくらいの巨大な揺れが、地面の底からやってきた。


 焦って何かに掴もうとした。


 けど、手すりも何も無い。


 思わず地面に手をつけて、膝をついた。


 そうでもしないと、思うように立っていられなかったからだ。



 ビルが揺れている。


 信号機も。


 歩道橋も。



 音が段々と大きくなってきた。


 雨足が強くなるかのようなスピードで、少しずつ速く、近づいてくる。



 交差点の上の人たちは、微動だにしていなかった。


 地面に吸い付いたかのような隙間のなさで、ぴったり固定されたまま硬直している。


 それだけじゃない。


 街全体を揺るがすほどの振動が目前まで迫っているのに、停止した街の輪郭は時間を切り取ったように静かなままで、どこまでも“止まっていた”。


 地面は確かに揺れていた。


 足の底が弾かれるほど、強く。


 地面に繋がっているあらゆる物体が、巨大な揺れの波に“干渉”していない。


 そんな“変化のなさ”を目の当たりにしながら、地面に這いつくばる。


 波。


 振動。



 そして——

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート