視線が合うなり、一之瀬さんは目を逸らした。
どうやら、逆効果だったみたいだ。
誰だよ“目は嘘をつかない”って言ったやつ。
全然伝わらないじゃないか。
こんなにも、真剣だっつーのに。
「…記憶喪失って、あの記憶喪失??」
「うん」
「ちょっと無理があると思うんやけど…」
「俺もそう思う」
「ちょっと、からかわんといてよ!」
からかってないんだよ…
超真面目な話なんだって…
どう説明しても無理なのはわかってる。
もう別にどうなってもいいかな。
会話が続かなくなったらなったで、いちいち考えなくても良くなるし
「自分の名前とかは覚えとるん?」
「まあ、それぐらいは…」
「ほんなら、何を忘れたん?」
“何を”って言われたら、案外難しいな。
単純に考えれば良いのか…?
ようするに、何も覚えてないんだ。
自分の名前とかそんなことはまあわかるけど、それ以外のことは大体。
覚えてないっていうか、“知らない”って言った方がいいのかもしれない。
そんなことは口に出せないが。
「ほとんど覚えとらんのや」
「ほとんど!?」
「うん。担任の先生の名前もわからん」
彼女は驚きを隠せないようだった。
絶句していた。
口を半開きにしたまま。
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