トレーを持たされて、千冬はパンを吟味し始めた。
買いたいもの決まってたんじゃないのか?
何を悩んでる。
「うーーむ」
右手を顎に当てて、虫メガネを持った探偵のように悩んでる。
ってか、揚げパンがねぇ!!
さすがに朝が早すぎたか?
でも、いつもだったら置いてるんだけどな。
看板商品だし。
「カレーパンがええかなぁ。それとも焼きそばパンか…」
「はよせぇよ」
「これにしよ!」
散々悩んだ挙句手に取ったのは、チョココロネ。
いや、カレーでも焼きそばでもないんかい!!
しかも惣菜パンじゃなくて菓子パンかよ。
急にどうした。
「あんたは?」
「俺は…」
揚げパンがないんだったら別にいいかな…
と思ったが、メロンパンがめちゃくちゃ美味しそうに見えた。
一応買っとこ。
あと、コーヒー牛乳も。
「お会計660円になります」
店を出て、国道2号沿いをずっと走った。
青い店舗カラーの薬局に、CoCo壱番カレー。
同じ背格好の店が、たくさん建ち並んでた。
耳鼻科に不動産屋、カウンター席しかない割烹料理店、シャッターの閉まった靴屋。
狭い駅前の通りを抜けた先に、薄い黄緑色の壁のビューティーサロンが、交差点の向こうに現れた。
サロンの横には、シベリアンハスキーのイラストが描かれた動物病院の看板がある。
西日が眩しい。
淡い緑の壁と合わさって、鏡に光を当てたように色を弾いてる。
少しだけ空が高くなって、線路が軋む音が聞こえた。
電車だ。
2号線沿いの線路が、三ノ宮に向かって伸びていた。
サロンがある交差点の左手に見えた。
背の低い高架下のトンネルと、堤防のようにせり上がった灰色の壁が。
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