煙突の見えるパン工房の裏を抜けて、ひらけた駐車場が見える家電量販店を通り過ぎた。
オレンジ色のマンションと、蜘蛛の巣のように張り巡らされた電線。
マンションのベランダから布団を干している人が見えた。
南国にありそうな瑞々しい葉をつけた植物が、花壇の上でぎゅうぎゅう詰めに並んでいる。
駐車場の壁に沿って植えられた生垣が、寝ぐせを立てて丸まっていた。
葉と葉の間に見え隠れする茶色い枝が、ぐねぐねした線を象りながら。
落合中学のプールサイド。
網敷天満宮の水色の銅板屋根と、赤い柱。
茶色いフェンスが両サイドに並ぶ踏切を渡り、海沿いの通りに出た。
浜手幹線交差点。
須磨駅前のT字路に。
「そこのパン屋寄っていい?」
「先行っとくで?」
「あんたは何も買わんのん?」
「揚げパン買っといて」
「自分で買いぃや」
「財布無いって言うとるやろ」
金は払ってやるから自分のものは持てと言われた。
しょうがねー
つってもさっき食ったからな。
お腹空いてないっちゃ空いてない。
でも、買っとくだけ買っとくか。
どうせ、朝練の後に腹減るし。
駅前の通りにある、『ひまわりベーカリー』。
素朴な外観とは裏腹に、色とりどりのパンが並ぶこの店は、学生にすごく人気の場所だ。
値段が安くて、美味しい。
三ノ宮駅の中のパン屋とか、商店街のパン屋も時々寄るが、やっぱここが一番うまい。
とくに「揚げパン」が。
カリッとした衣に、噛んだ瞬間溶けるようなふっくらとした弾力が、息を合わせたようにやってくる。
他にはない絶妙なバランスの食感の後にやって来るのは、ジューという揚げたての躍動感と、餡子の濃厚な甘み。
口の中に到着する頃には、パンの生地に染み込んだじんわりとした甘さと、パンの中に閉じ込められた強烈な餡子の風味が、息をつく間もなくやってくる。
雷が落ちてくるように、口の中が弾けるんだ。
「うまっ!!!!」って感じで。
最初食った時は甘すぎると思ったけど、今は違う。
逆に今くらいとんがってないと、少し物足りないと思う。
とくに表面にまぶしたザラメが、触感といい舌触りといい、全体の味わいを良くしてくれてる。
最高なんだよな。
「ジャリッ、じゅわ〜」って感じのコンビネーションが。
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