雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第353話

公開日時: 2023年10月12日(木) 23:47
文字数:893


 煙突の見えるパン工房の裏を抜けて、ひらけた駐車場が見える家電量販店を通り過ぎた。


 オレンジ色のマンションと、蜘蛛の巣のように張り巡らされた電線。


 マンションのベランダから布団を干している人が見えた。


 南国にありそうな瑞々しい葉をつけた植物が、花壇の上でぎゅうぎゅう詰めに並んでいる。


 駐車場の壁に沿って植えられた生垣が、寝ぐせを立てて丸まっていた。


 葉と葉の間に見え隠れする茶色い枝が、ぐねぐねした線を象りながら。



 落合中学のプールサイド。


 網敷天満宮の水色の銅板屋根と、赤い柱。


 茶色いフェンスが両サイドに並ぶ踏切を渡り、海沿いの通りに出た。


 浜手幹線交差点。


 須磨駅前のT字路に。




 「そこのパン屋寄っていい?」


 「先行っとくで?」


 「あんたは何も買わんのん?」


 「揚げパン買っといて」


 「自分で買いぃや」


 「財布無いって言うとるやろ」



 金は払ってやるから自分のものは持てと言われた。


 しょうがねー


 つってもさっき食ったからな。


 お腹空いてないっちゃ空いてない。


 でも、買っとくだけ買っとくか。


 どうせ、朝練の後に腹減るし。



 駅前の通りにある、『ひまわりベーカリー』。


 素朴な外観とは裏腹に、色とりどりのパンが並ぶこの店は、学生にすごく人気の場所だ。


 値段が安くて、美味しい。


 三ノ宮駅の中のパン屋とか、商店街のパン屋も時々寄るが、やっぱここが一番うまい。


 とくに「揚げパン」が。


 カリッとした衣に、噛んだ瞬間溶けるようなふっくらとした弾力が、息を合わせたようにやってくる。


 他にはない絶妙なバランスの食感の後にやって来るのは、ジューという揚げたての躍動感と、餡子の濃厚な甘み。


 口の中に到着する頃には、パンの生地に染み込んだじんわりとした甘さと、パンの中に閉じ込められた強烈な餡子の風味が、息をつく間もなくやってくる。


 雷が落ちてくるように、口の中が弾けるんだ。


 「うまっ!!!!」って感じで。


 最初食った時は甘すぎると思ったけど、今は違う。


 逆に今くらいとんがってないと、少し物足りないと思う。


 とくに表面にまぶしたザラメが、触感といい舌触りといい、全体の味わいを良くしてくれてる。


 最高なんだよな。


 「ジャリッ、じゅわ〜」って感じのコンビネーションが。

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