「空」が、落ちてくる。
もしかしたら、その表現は間違っているかもしれない。
空が“落ちる”なんて、あり得ないことだ。
だけど傾いていた。
世界が傾いていた。
雨雲は次第に大きくなり、雨粒がさっきよりもずっと冷たい。
積乱雲の峰の向こうには、無数の星が。
…星?
…いや、でも、今は夜じゃない。
星なんて見えるはずがない。
だけど見えたんだ。
夜空に輝くような星々が。
空を飛翔し、地平線を飛び越えて、彼方へと流れていく。
「青」はもうずいぶんと遠くへ遠ざかった。
ドーム状に丸み帯びていく空は、夕暮れ時のように赤茶けながら、暗く乾く。
強烈なコントラストが視界の内側を揺らす。
光の粒ひとつひとつが、泡状に膨らみ、パチパチパチと弾けて…
…カナカナカナカナ
ひぐらしの鳴き声が降ってくる。
耳をつん裂くほどの音量で、鼓膜が揺れる。
交差点の外側、——その平行線上には、駆け足で迫ってくる波が。
外に逃げる力と、内に収縮する何万分もの1秒。
街はもうそのほとんどが、「形」を失いかけていた。
数え切れないほどの粒子となって、空中に融ける。
交差点を囲うように地面が割れる。
センタービルが波に飲まれ、街ごと消えていく風景が、そこにはあった。
影がずっと濃くなっていく。
地面の傾きが、ずっと深くなっていく。
すぐそこまでやってきてた。
星が。
——隕石が。
地球の重力圏。
成層圏の「壁」を越えて、空には巨大な風穴が開いていた。
穴はみるみるうちに広がり、渦状の暴風を巻き起こす。
その渦の中心から、雨粒が飛散しながら落ちてくる。
その回転量は、まるで竜巻だった。
虚空の隅々からあるだけの風を集めて吹きつけるような、凄まじい気流の変化を生み出していた。
隕石の表面は熱を帯びている。
それは燃え盛る炎のようにも見えた。
空気中の大気を灼きながら、凄まじい速度で落下してくる。
ボタボタと降りしきる雨をも、追い越し。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!