雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第136話

公開日時: 2023年4月28日(金) 02:03
文字数:553


 「名前…?」



 聞こえてくるはずがないその“音”を、耳の片隅に追いかけた。


 それはほとんど無意識に近いものだった。


 少なくとも、それが感情の外側に無いことだけは明らかだった。



 「桐崎…」



 身近すぎる苗字。


 切っても切り離せない音。


 唇が動くその弾力に跳び上がりそうなほど、跳躍力の高い語感。


 俺は耳を澄ませた。


 次に聞こえてくる言葉を、取りこぼさないように



 「桐崎千冬」




 …そんな、…バカな



 絶句した。


 絶句する以外になかった。


 だって、そんなことはあり得ない…


 アイツが、…“千冬”が、目の前にいるなんて…



 「…千冬?」



 声が掠れる。


 酸素が、肺にまで到達しない。


 視点が揺れ、瞬きさえできなかった。


 何が何だかわからないまま。



 「なんや?」



 この耳に確かに、「千冬」って聞こえた。


 アイツの名前が、見知らぬ女子高生の口から聞こえてきた。


 その音の行方を追いかけようとしても、思うように頭が働かなかった。


 どれだけ冷静に考えようとしても、ダメだった。



 「千冬って…、あの?」



 自分でも何を言ってるのかよくわからない。


 どうしてそんなことを聞くのか。


 どうして、立ち止まってしまう自分がいるのか。



 「“あの”って、どういう意味??」



 確かな言葉が続いてこない。


 尋ねるべき言葉が見つからない。


 だけど、頭の中があり得ない速度で回転した。


 体全体が硬直するほどの、慌ただしさで。



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