雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第300話

公開日時: 2023年8月22日(火) 20:41
文字数:1,003


 「現在と現在の間には「壁」が無いんや。ピッチャーとキャッチャーを結ぶ一本の線の中に、まだ、追いつけるスピードがある。キーちゃんは思い描いとった。新しい未来が、明日に続いてることを。誰よりも速いストレートが、あの夏の向こうに続いてることを」



 ボールを握りながら、それを俺に渡す。


 千冬が夢の中にいる。


 その意味を、時間を、しっかり考えろと言ってきた。


 千冬が、誰よりも速いストレートを投げようとしていたこと。


 「22世紀の世界」を、取り戻そうとしていたことを。



 「…え?」


 「気の遠くなるような話やけどな」


 「ちょっと待て…」


 「ん?」


 「22世紀…?なんだよそれ」



 わけがわからない。


 「22世紀」?


 確かにそう言ったよな?



 「うん」


 「22ってことは、…えーっと」


 「あと90年くらい先のことや」


 「…ああ、そっか。って、そこやない」


 「ん?」


 「千冬がなんて言った?」


 「22世紀の世界を取り戻す」


 「…?どういうことや…?」


 「隕石が落ちて、世界が崩壊した。隕石が落ちたのは?」


 「…2083年」


 「そう。つまり、や」



 つまり…?


 なんのことを言ってんのかよくわからない。


 「取り戻す」?


 取り戻すって何を?



 「未来が失われた。この言葉の意味が、“全て”や」


 「…待て待て。まだついていけとらんのやけど」


 「今どこまで理解しとん?」


 「まあ、それなりには」


 「嘘つけ!」



 だから、理解できるわけねーって言ってんだろ


 でも、前よりはな?


 けど、その“未来がなんちゃら”って話についてはパス。


 何回聞いてもよくわからんから。



 「その時になってみんとわからんかもしれんけど、遠かれ早かれ、世界は終わるんや」


 「…お、おう」


 「キーちゃんはその「未来」を変えたかった。隕石が落ちてくる「運命」そのものを、壊したかったんや」


 「…どうやって?」


 「想像できんかもしれんが、あんたにはわかるやろ?キーちゃんの「夢」が」



 千冬の夢…?


 そりゃもちろん知ってる。


 だけど、それとこれがどう関係あるっていうんだ?


 そもそも、お前が話してんのは「未来」だろ?


 なんで千冬が出てくるんだよ。



 「キーちゃんは未来で、あんたに会いに行こうとした」


 「は?」


 「あんたを探しとるんや。——ずっと」



 不意に出てきたその言葉に、固まる。


 

 探してる…?



 千冬が…、俺を…?



 「どういうことや」


 「キーちゃんはもう一度、あんたと甲子園に行こうとしとる。あの舞台にもう一度立って、「未来」を変えたいと願っとる。あんたが生まれるよりも、ずっと前から」



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