「現在と現在の間には「壁」が無いんや。ピッチャーとキャッチャーを結ぶ一本の線の中に、まだ、追いつけるスピードがある。キーちゃんは思い描いとった。新しい未来が、明日に続いてることを。誰よりも速いストレートが、あの夏の向こうに続いてることを」
ボールを握りながら、それを俺に渡す。
千冬が夢の中にいる。
その意味を、時間を、しっかり考えろと言ってきた。
千冬が、誰よりも速いストレートを投げようとしていたこと。
「22世紀の世界」を、取り戻そうとしていたことを。
「…え?」
「気の遠くなるような話やけどな」
「ちょっと待て…」
「ん?」
「22世紀…?なんだよそれ」
わけがわからない。
「22世紀」?
確かにそう言ったよな?
「うん」
「22ってことは、…えーっと」
「あと90年くらい先のことや」
「…ああ、そっか。って、そこやない」
「ん?」
「千冬がなんて言った?」
「22世紀の世界を取り戻す」
「…?どういうことや…?」
「隕石が落ちて、世界が崩壊した。隕石が落ちたのは?」
「…2083年」
「そう。つまり、や」
つまり…?
なんのことを言ってんのかよくわからない。
「取り戻す」?
取り戻すって何を?
「未来が失われた。この言葉の意味が、“全て”や」
「…待て待て。まだついていけとらんのやけど」
「今どこまで理解しとん?」
「まあ、それなりには」
「嘘つけ!」
だから、理解できるわけねーって言ってんだろ
でも、前よりはな?
けど、その“未来がなんちゃら”って話についてはパス。
何回聞いてもよくわからんから。
「その時になってみんとわからんかもしれんけど、遠かれ早かれ、世界は終わるんや」
「…お、おう」
「キーちゃんはその「未来」を変えたかった。隕石が落ちてくる「運命」そのものを、壊したかったんや」
「…どうやって?」
「想像できんかもしれんが、あんたにはわかるやろ?キーちゃんの「夢」が」
千冬の夢…?
そりゃもちろん知ってる。
だけど、それとこれがどう関係あるっていうんだ?
そもそも、お前が話してんのは「未来」だろ?
なんで千冬が出てくるんだよ。
「キーちゃんは未来で、あんたに会いに行こうとした」
「は?」
「あんたを探しとるんや。——ずっと」
不意に出てきたその言葉に、固まる。
探してる…?
千冬が…、俺を…?
「どういうことや」
「キーちゃんはもう一度、あんたと甲子園に行こうとしとる。あの舞台にもう一度立って、「未来」を変えたいと願っとる。あんたが生まれるよりも、ずっと前から」
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