…情報量が多すぎてついていけない。
一体何から突っ込めばいいのかもわからなくなった。
「未来」がなんなのかもよくわかってないのに、急にそんなこと言われても…
高台に着いたあと、展望台のデッキで、女の話に耳を傾けた。
山の裾野では、木々の揺れる音と、虫の声がする。
リーリーと夜の底をつくような深いざわめきが、森の斜面に沿って流れていた。
星が綺麗な夜だ。
月の明かりも、遠くに聞こえる電車の音も。
千冬が未来で亡くなったのは、ある意味「運命」に近いものだそうだった。
ずっと遠い昔から定められた、世界の“決め事”だったと。
「運命なんて言われてもわからんわ…。大体、「昔」ってなんやねん」
「何千年も前のことって感じ?」
「…意味わからんやろ。そんなん」
何千年って…
織田信長だって生まれてなくね?
ワンチャン聖徳太子も生まれてない可能性がある。
…え、合ってるよな?
「バカが移るからやめてくれん?」
「結構昔の人やろ」
「ちゃんと勉強してるん?」
「…してます」
「はいはい」
聖徳太子なんて、小学生の時以来習ってない。
俺の得意分野は理科とか数学だから。
日本史とか、将来の役に立たねーし。
「そういうこと言うやつが、いちばんバカなんやで?」
「そういうお前はどうなんや?」
「私?私は天才やけど」
「上から見ても下から見てもバカにしか見えんが」
彼女は怒った表情で俺を見る。
…話が脱線したが、ようは、そんな昔のことを言われてもって感じなんだけど。
昭和のことだってイマイチよくわかってないんだ。
明治と大正がどっちが先だったかも…
「この神戸の街も、昔は少し違ってた。この高台も無かったんや。無いって言うか、別の場所にあるっていうか」
「…違ってたって、なんで?」
「なんで?…うーん、そうやなぁ、何から話せばええやろ」
困った表情で、手すりにもたれかかる。
肘を柵の上に乗せて、天を仰ぎ見てた。
時折、腕を組みながら。
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