「桐崎…千冬…?」
ほとんど無我夢中で、その名前を口にした。
彼女に問い質したかったわけじゃない。
…いや、厳密に言えば確かめたかった。
それは事実だ。
だけどそれ以上に心の中で感じてたのは、今、“何が起こってる“かの直接的な困惑だった。
そう考えるより他になかった。
”考える”というよりも、引っ張られるという感覚の方が近かった。
ほとんど無理やり動かされてるような感覚だった。
それぐらい、何もかもがぐちゃぐちゃだった。
「ほんまにどないしたん?」
噴水前のベンチに座らされ、おでこに手を当てられる。
熱があるのかどうか確かめられてるようだが、生憎、体調は悪くない。
頭痛もしないし、目眩だってない。
何度も言うが、おかしいのは俺の方なんかじゃない。
…絶対に
「…ちょっと手ェ貸してくれるか」
「…は?手?」
「ああ」
もしも彼女が千冬だって言うんなら、子供の頃についた傷があるはずだ。
差し出された左手を持って、袖を捲った。
自転車で転けた時の傷。
小石で擦りむいた、大きな切り傷。
「なな、なんや急に!」
…ある
一瞬目を疑った。
それがあの“傷”かどうかはわからなかったが、同じ場所、同じ形で、擦りむいた跡が残っていた。
彼女はすぐに手を引っ込めた。
気恥ずかしそうに、勢いよく後退り。
俺はもう一度その傷跡を見たかった。
だからすぐに立ち上がって、遠ざかる彼女の左手を掴んだんだ。
もう一度、近くで…
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