「今日ほんまに参加せんのか?」
「あ…、うん、わりぃ」
今日の夜、山本(野球部のメンバー)の家で焼肉するっていう話が上がってた。
花火大会が港で上がる関係で、皆で見ようぜ!って話になって。
山本ん家は焼肉屋を営んでて、立地的に最高のスポットだった。
高松線の港の近くに店があるんだけど、堤防のすぐ手前に店の駐車場がある。
積み上げられたテトラポッドと、穏やかな潮風の波止場。
家が路地の裏にあるから、車は一切通らない。
造船所が近くにあるんだけど、周りには飲食店の1つもなくてさ?
老舗らしかった。
何十年も昔から親しまれてるらしくて、今は3代目なんだって。
船着場の人がよく出入りしてるそうだ。
工場地帯で働く男たちが、夜な夜な酒を飲んで盛り上がってるらしい。
聞く話によると、次の日には店の前にビール瓶が溢れかえってるみたいだった。
山本はよく店の手伝いに駆り出されてるって話だ。
朝のゴミ出しとかレジ打ちとか。
詳しくは知らんけど。
「この、色男め」
「やめろ」
焼肉に行けないのは、約束してたからだ。
花火を見に行くんだ。
一ノ瀬さんと。
昨日誘われたから。
「俺たちは男同士でしんみりやろうってのに、お前ってやつは」
「お前こそ彼女おるやんけ」
「アイツは友達と行くっつって断られた」
「お前とはむさ苦しいって?」
「やかましわ」
正直、どうしようかとは思ったんだ。
誘われたのはめちゃくちゃ嬉しかったけど、できることなら千冬と行きたいなって思ってた。
…でもアイツ、先約がいたんだ。
「私はその日デートやから」って、言われて…
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