ドンッ…!
乾いた音が、辺り一面に響いた。
それと同時に、勢いよく踏み込んだ左足が、止まらない時間の中で地面を揺らす。
影。
砂埃。
めくれたシャツ。
着地と同時に蹴り上げられた土が、空中に飛ぶ。
体ごと前に迫り出したテイクバックは、背筋の伸びた上体を残したまま、肩甲骨を持ち上げていた。
大きな弧が、回転する左半身の外側から訪れる。
空間にぶつかる音と、空気を切り裂く音。
空気抵抗が膨らみながら、全体重の乗った並進運動が、時間の内側へと収縮していた。
その“壁”をぶち破るかのように、指とボールの境界線上はギリギリの接点だけを保っていた。
着地した左足のスピードに乗っかり、体の中心から内側へと回転する右腕が最短距離を走って、そのまま、——前方へと。
プレートの端に残ったつま先。
指の皮膜に押さえつけられる球面。
放たれたボールは、まっすぐグローブへと伸びてきた。
空気を押しのける。
重力を無視しながら、回転する。
音はまだ、耳の中にたどり着いてはいなかった。
地面スレスレを走ってくる直線上の軌道はボールの影を追い越し、時間と時間の“間”を押しのけていく。
強烈なバックスピン。
焦げ付くような回転量。
膨張するスピードは、伸び上がる軌道の中にあった。
ブレーキをかける間合いも、——距離も、なく。
バシィッ…!
あの頃と変わらない、力のこもった球。
受けた左手は痺れてた。
綺麗なスピンがかかった球に、少し反応が遅れて。
「これで満足か?」
投げ終えた後、さっさと帰るぞと彼女は言う。
めくれたシャツを戻し、乱れた前髪を持ち上げながら。
俺はすぐには立ち上がれなかった。
なんというか、…その…
衝撃的だったんだ。
何もかもちっぽけに思えてしまうほど、あり得ないことが起こってた。
記憶が蘇っただけじゃない。
ずっと確かなこと、——忘れちゃいけないことが、そばにある。
それをどんな言葉で表現していいかも、分からなくて…
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