“そんなわけない”って、何度も思った。
千冬が目の前にいる。
そんな「非現実的」なことが、起こってるわけない。
言い聞かせるように何度も、…何度も
この前女が言ってた。
「世界」には、色んな“パターン”があるって。
だから、自分が今いるこの世界の他に、違った可能性の世界が、存在している。
“並行世界”
漫画とかで目にするような、とんでもワード。
そんな非日常的な“ワード”を不意に思い出したのは、思いもよらない可能性が、頭の中をよぎったからだ。
子供の頃の「夢」だった。
——あの日千冬が海に行かなければ、世界はどうなっていたんだろう?
ありふれていて、…それでも、確かな「夢」。
甲子園に行けば、きっとまた会えるかもしれない。
ベットから飛び起きて、サイレンの鳴るグラウンドの上で、マウンドに立つアイツが…
想像でしかないと思ってた。
想像の中でしか、叶えられないと思ってた。
“もしも世界が違ったら”?
そんなバカげたことが、現実に訪れるはずはなかった。
千冬はあの日いなくなった。
それは間違いないんだ。
どれだけ季節が変わろうが、——どれだけ、長い時間が過ぎようが。
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