高さも奥行きもある空間。
人が通れそうなほど太いダクト。
パソコンルームの小綺麗な床や壁が嘘みたいに、その“場所”は黒ずんでいた。
汚いわけじゃない。
ましてや、散らかっているわけでも。
視線を傾けた先にあったのは、ゾッとするほどの冷たい質感だった。
人の気配がない。
それは見たままの印象だった。
人の気配が無いのはさっきからだが、そういう意味じゃないんだ。
感じたのは、そういうことじゃない。
もっと深い、何か。
穴の中を覗き込んだ時のような、海の底から持ち上がってくる藍色のような、不気味さ。
それがあった。
機械…?
一瞬それがなんなのかは分からなかった。
直径何十メートルもある。
天井からぶら下がっている円盤型の金属と、配線。
太い鉄骨と、奇妙な電子部品。
巨大なドーナツ型の機械が、部屋の中央に設置されている。
めちゃくちゃデカくて、床一面を覆っていた。
吸い込まれそうになってしまった。
なんだこの物体…
リングの中央には箱型の大きい機械装置があり、外側には太い配管のような金属パイプが、円に沿って均等に取り付けられていた。
パイプはそのまま壁の中に繋がっている。
どこに繋がっているのかは知らないが、1本1本がリングの部品と接続されていて、接続部には青い表面が見えた。
上から見ると、蜘蛛の巣のような形状になっていた。
リングの中央だけでなく、つなぎ目にも箱型のボックスがあり、電子機器が剥き出しになっている。
空間自体が回路みたいな作りになっていた。
ゲーム機が壊れた時に中を開いて見たことがあるけど、あの感じ。
作り自体は全然違うけど、パッと見それっぽいなって思った。
人の血管のように張り巡らされているコード。
複雑な機構が組み込まれた外観。
それこそ、生き物のようにも見えた。
細かい部品で埋め尽くされた、機械仕掛けの時計みたいに。
パソコンルームと機械がある部屋は、かなりの高低差があった。
ちょうど見下ろす形で、ドーナツ型の機械が見えた。
今自分がいる所がいちばん低い場所かと思ったが、そうじゃないみたいだ。
地下の構造がどうなってんのか知らないが、地図を見る限り、まだまだ下に階層がありそうだった。
つい、自分が地面の中にいるっていうことを忘れてしまう。
だってこの窓の向こうも、かなり下まで掘削されてる。
下手したら3階くらいの高さがある。
窓のすぐ外には簡易式の渡り通路があって、下まで行けるようになってた。
向かい側の壁にも行けるみたいで、どうやら、ここと同じような部屋が奥に広がってるみたいだった。
電気はついてなかった。
下側のフロアにも同じく部屋が。
通路も見えた。
上からはよく見えないが。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!