小難しい文字の羅列。
意味不明な専門用語に、おじさんの名前。
…よくわかんないけど、1995年1月17日って言ったら、地震があった日じゃ…
セカンドキッド?
デジタルフロンティア?
何回か読み直したけどわからない。
女はパソコンの中に入っているデータを漁っていた。
他にも色々な文書があった。
そのどれもが、難しい内容だった。
「そのパソコンに、探しとる資料が?」
「このパソコンって言うより、オンライン上に保存されとるストレージにアクセスしとるだけや」
「ふーん」
「かなり厳重なセキュリティを突破する必要があるが、受付でもらったこのカードキーのおかげでな?」
「それが?」
「暗号化されたエリアを簡易的に通過できる。1時間しか有効やないが、十分や」
そんな便利なもんだったのか
ってかお姉さんの件、あれほんとにほんとなのか?
人造人間が何かを知らないわけじゃない。
思ってるのと違う可能性もゼロじゃない。
だとしても、だ
「…あのさ」
詳しく聞こうと思ったが、女は画面を見ろと催促してきた。
今度はなんだ…?
見たところで、よくわからないと思うんだけど。
「キーちゃんの記録が残っとる」
「は!?」
「“日記”みたいなもんや。と言っても、どの“世界線”のキーちゃんなんかはわからんが」
千冬の日記…?
画面を見ると、千冬の名前がそこにはあった。
それだけじゃない。
小難しい文章は無くなって、そこには日常的な文字や言葉が書かれていた。
どれも、ブログみたいな書き方だった。
簡易的な日付と、その日の出来事。
…なんで、こんなもんが…?
“俺が知ってる千冬じゃない”
と、女は言う。
じゃあこの前の世界の千冬?
どうも、それも違うみたいだった。
「ここに載っとる文書は、別の世界から集積したデータの一つに過ぎん。私たちはこのデータを、『世界の記憶』として保管しとる。これから先に起こること、これまでに起こったこと。そういったいくつもの多世界線上の中に、世界の“地脈“が流れとる。そのほんの一部を、データとして管理しとるんや。デジタル上に繋がった、クラウドネットワークを駆使してな」
「えっと…」
「無理に理解しようとせんでええ。わかる範囲で、理解していったら」
ここじゃない”別“の場所。
別の時間。
限りなく遠い距離の先に、「彼女」がいる。
そう言うけど、”遠い”っつったって…
別の世界線の千冬、か。
わからないのは、その「千冬」が書いたっていう記録が、このパソコン上で閲覧できてることだ。
普通に考えておかしくね?
どうやって、その記録を入手したんだ?
単純に疑問だった。
別の世界のことは、この世界とは関係ないんだろ?
だったら
「今は理解できんでもええ」
「そうは言ってもやな」
「ひとつ言えるのは、この「別の世界のキーちゃん」も、あんたを探しとったということや」
「この前の話?」
「そう」
俺を探してる。
世界を旅して、未来を変えようとしていた。
その「断片」が、この文書の中にあると言った。
彼女が書いたというその記録は、どれも、赤裸々に書かれたものだった。
いつの時代かもわからない、どこで書かれたものかもわからない、——そんな遠い気配を、どこかに感じた。
膨大な文字と、数字の中に。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!