坂の上から見える住宅街の景色。
緩い勾配から赤い屋根がガードレール越しに見えて、松の木が、ひょっこり塀の横から顔を出してた。
丘の上まで伸びていく電線が、山間の緑の奥に続いている。
チチチチという囀りが、そよそよと吹く向かい風の中に弾んでいた。
垂水方面のバスが、俺たちを追い越していく。
ブロロロロという音と、なだらかな斜面を蹴り。
阪神高速線の下を抜け、河川敷の上を走った。
パチパチと浮き上がる光の粒が、川の表面を飛ぶように跳ねている。
土手の裾に擦れていく水面が、ゆっくりと傾きながら波打っていた。
遮るものがなにもなかった。
中央区のビル群は、ぼんやりとした空気の中に漂っていた。
ずっと遠い場所にあった。
山肌の鉄塔も、街の景色も。
平らな道なりに浮かんでいる橋。
その真下を降っていく、広い川幅。
朝からランニングしてる人が、乾いた地面の上を走っていた。
草むらをかき分けていく石段が、川のほとりの広間まで横たわっていた。
石の表面には草が生えて、所々がひび割れている。
階段の手すりに触れる背の高い雑草が、肘をつくようにもたれかかり。
鉄橋のすぐ下を抜けて、狭い路地の中を走った。
錆びた標識が一方通行の道のそばに立ち、街の形が一気に変わっていく。
住宅地の建物が混み合うようにひしめいていた。
アスファルトの上には木陰が泳ぎ、チラチラと日差しを揺らしていた。
河川敷から見えた広い景色は、土手の坂道を降りた途端にパタリと見えなくなった。
窓にカーテンを引いたように、光の加減が弱くなる。
ピーピーという車の音。
ゴム収集車の回収作業。
朝から頑張ってんな。
俺のとこはボロボロだけど、ここらへんのステーションは綺麗だ。
黄色い袋に入れられたゴミが、山のように積まれてる。
可燃ごみかな?
今日は。
道路脇の水路が、窪んだ溝の底を洗っている。
青く焦げたように鬱蒼と繁った藻が、ゆらゆらと漂っている。
「メゾンさくら」と書かれたアパート。
よく吠える犬がいる家。
キャンピングカーが置いてある、白い看板の工務店。
路地から路地を渡り、途中、商店街の通路を横切った。
朝が早いから、ほとんどの店は閉まってた。
開いてたのは生鮮市場くらいだ。
あと、金具店。
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