「あんた、さっきからおかしいで?」
…おかしい?
…俺が?
覚束ない視点。
目の前に迫ってくる、騒音にも近いノイズ。
疑問に思う暇もないまま、近づいてくる感情があった。
だけどその“感情”がどこからきているのかも、はっきりと辿ることはできなかった。
ただ、咄嗟に首を振る自分がいた。
その所作の先端に触れる“時間”も、思うように追えないまま。
「…あり得ないだろ」
俺がおかしいわけないじゃないか。
「桐崎千冬」だって…?
誰が?
自分の心に反芻するように考えた。
でも、何度考えても同じだった。
単純なことだとさえ思えた。
こんなのは現実じゃない。
“あり得ない”
って、何度も
女子高生は呆然とする俺の手を引っ張り、駅の外に出た。
なすがままにされた俺は、彼女の視線や仕草を必死で追いかけた。
袖の下に見えている黒色のアンダーシャツが、軽やかな彼女の足取りの上に映えていた。
きっと、運動が得意なんだろうと思う。
エナメル製のボストンバックも。
ナイキのスニーカーも。
女っ気のない言葉遣いが、予期していない角度からぶつかってくる。
それは意識の内側に渦巻く膨大な情報量となって、津波のように押し寄せてきた。
千冬の声色や“らしさ”が、忘れていた記憶の“外側”から、風に乗って流れてくるように。
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