甲子園球場に行けば、何かがあると思った。
具体的にって言われたら、イマイチわかんねーけど。
まあ、俺は俺で、あの舞台に立ちたいと思うことはあった。
あったっつーか、完全に影響されてただけだが…
女が言うように、千冬に出会ってなかったら、多分野球はやってない。
甲子園なんて興味もなかったんじゃないか?
ただでさえクソ暑いのに、何が嬉しくて外に出るんだ?
多分、そんなだったと思う。
元々、運動は得意じゃなかったし。
もし千冬と出会ってなかったら、今頃何をしてただろう。
今でも引きこもってたかな。
家でゲームばっかして、おかんに迷惑かけてたかな。
そんなこと考えてもしょうがねーか。
なるようにしかならないんだ。
結局は。
「で、お前はどうなん?」
「何が?」
「なんで野球に興味持ったん?」
前にも聞いたけど、結局あやふやなままだった。
意味不明なこと言ってたよな?
確か。
…なんだったっけ…
…えーーーーっと
明日…
世界が滅ぶから…
だったっけ…?
…つーか、なんだよそれ
ポエマーかよ。
理由になってねーっつーの。
もう少しまともなこと言えないのかって思う。
質問に見合った回答というか。
「あんたを打ち取るためや」
「は?」
「あんたには絶対に打てん球を投げたかった」
「説明になっとらんがな。打ち取るってなんやねん…」
「なんなら今から勝負するか?」
しねーよ。
なんだよ「勝負」って…
右手に握った軟式野球ボールを、ポンッと宙に投げる。
その仕草を見て、この前と同じように野球で勝負するつもりなんだなって思った。
俺がバッターってこと?
…ってか、そうだよな。
打ち取るって言ってんだから。
「よくわかっとらんのやけど」
「勝負って言うたら一つしかないやろ」
「いや、そうやなくて」
「ほんならなんやねん」
「なんで俺がバッターなん?」
「私打つの下手やし」
「そう言う問題やなくて、俺を打ち取ったところでって話なんやが?」
「それはあんたが…」
「俺が?」
「“日本一のバッター”を目指しとったから」
「そう。それそれ」
「あんたの夢やん」
そんな夢を抱いたことはございません。
千冬とライバルだったって聞いたけど、あり得ないから。
色んな意味で。
「ま、せいぜい負けんようにな」
「自信満々やな」
「この前負けたくせに」
「…あれは、油断しとっただけや」
「はい言い訳」
「本気になった俺を打ち取れると思っとん?」
「この世界のあんたは腑抜けやし」
「…ほう。おもろいやん。言っとくけど、ストレートには強いで?」
「ストレートだけやん」
「言うても、スライダーとストレートの2球種やろ?どっちかに絞れば楽勝や」
「投げれるのスライダーだけやと思っとる?」
まさか、他にも球種あんの?
その口ぶりだと、他にも投げれそうだけど。
「当たり前やん」
「…こわ」
「ストレートだけで十分やけどな?」
「ぬかせ」
大体、ポジションはどこだったんだよ。
ドルフィンズにいた時。
千冬と同じでピッチャーだったのか?
まあでもそうだよな。
あのフォームといい、投げっぷりといい。
「キャッチャーや」
「…え?」
「相方やったんや。キーちゃんのな」
…相方、っていうのは、つまり…?
尋ねると、女は言った。
千冬と、“バッテリーを組んでた”って。
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