「…私のことは?」
「えっと…」
それはさっきも言ったけど、知らない…
俺たちは多分友達なんだろうと思う。
さっきのコウって男とも。
だから“覚えてない”なんてストレートには言えなかった。
だって仲の良い友達から「誰?」って言われたくないだろ?
俺は嫌だね。
普通に傷つくし
「とりあえず色んなことを忘れとって…」
「…ふーん」
先生の話なんてそっちのけで、興味深げに俺の方を見ていた。
「ふーん」って、今どんな心境なんだろ
冗談としか見てくれてないとは思う。
その割には真面目な顔をしてる。
真面目っていうか呆れてるのかも。
あーあ、やっちまったなこりゃ
「ほんなら今日のことも忘れたん?」
「それ気になっとったんや。何があるん?」
できるだけ神妙っぽく聞いた。
彼女の口ぶり的に、なにか大事なことがあるのは間違いなさそうだった。
誰かの誕生日とか?
それなら申し訳ない。
全然わからないっす…
「えー、楽しみにしとるのに」
…楽しみに?
「なんか、重大なイベント?」
「映画。見に行くって言ったやろ?」
…は?
え、映画?
誰と誰が??
「私と」
冗談を言ってるようには見えなかった。
”2人で“ってこと??
…しかも映画、って。
俄には信じられなかった。
相手は女子だ。
友達とはよく見に行くけど、女子と2人で映画を見に行ったことはない。
千冬とは家族ぐるみで行ったことはある。
でも、2人では無い。
そもそも、そんな金はなかった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!