雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第234話

公開日時: 2023年6月19日(月) 23:17
更新日時: 2023年6月20日(火) 20:02
文字数:1,505


 ◇◇◇




 「ほんなら、また明日ね」



 神戸高校の近くまで自転車で帰って、一ノ瀬さんと別れた。


 結局収穫はなかった。


 大ちゃんの家に遊びに行こうかと思ったけど、急にお邪魔するのもなぁと思ってやめた。


 連絡を取ってないんだ。


 知り合っていない可能性だってある。


 そりゃそんなこと理屈じゃ考えられないが、昨日も今日も、信じられないことをいくつも目にした。


 だからあり得なくもないなって、なんとなくさ?



 同じ場所のはずなのに、何かが違う。


 須磨高に行って、とくにそれを感じた。


 ソフト部用のバットやボールが置かれたままの部室。


 みんなと作った「部員募集!」のポスターが、どこにも貼られていない廊下。


 佐藤先生は俺のことを知らなかった。


 さっき駐車場で会ったんだ。


 ブロックの上に座ってたら。


 会釈して、車に乗ろうとする先生に声をかけた。


 久しぶりですって言ったんだ。


 そしたら…



 クラスのみんなはどこに行ったんだろうか。


 大体の部活を覗いてみたが、誰もいなかった。


 絶対ツバサはテニス部にいると思って、もう一度見に行ってみた。


 でもやっぱ、見当たんなかった。


 祐輔はサッカー部に入りたいって前に言ってた。


 だから、サッカー部の様子もずっと見てた。


 健太や岡っちはよくわかんねぇ。


 大ちゃんは、野球部を立ち上げようって話をする前は、とくに何かをやりたいって感じじゃなかった。


 高1なのに将来のことを考えてて、大学に進学するために、いつもまじめに授業を受けてた。


 俺がちょっかい出さなけりゃ、きっと今頃、勉強漬けの日々を送ってたんじゃないか?


 今もちょっとした時間に、1人だけ教科書広げて勉強してるもん。


 成績は優秀だし、週2で塾に通ってるし。


 

 なんでこんなことになってんだろ…


 バス停のベンチに腰掛けて、しばらく休憩してた。


 先週、すぐそこのラウンドワンのゲーセンにみんなと行った。


 岡っちのやつ、毎度毎度太鼓の達人がうますぎるんだよな。


 UFOキャッチャーもめちゃくちゃうまいし、まじでびびった。


 あの日も確か、この付近を色々歩き回ったっけ。


 急にタコベルに行こうとか祐輔が言い出して、チーズ入りのナチョスを腹一杯食った。


 商店街の中を散歩しながら、生ぬるいコーラを片手に。


 須磨駅の前もそうだったが、ここは、ほとんどなにも変わってない。


 神戸の街は神戸の街だ。


 中央区の古い街並み。


 三ノ宮駅南側の巨大な噴水。


 ベイエリア。


 夕方になると、三ノ宮駅の周辺は建物や車の光で埋め尽くされる。


 路地裏でタバコを吸ってるスケーターや大学生。


 手を繋いで歩いてるカップル。


 仕事帰りのサラリーマン。


 いろんな場所で、いろんな人たちが行き交いながら、街が動く。


 まるで、これから祭りでも始まるのかっていうくらい、賑やかな音が鳴り始めて。


 

 でも、なんかが違うんだよな。


 ビルの広告も、チラシを配ってるお兄さんも。


 …アイツ、なんて言ってたっけ?


 この世界に来る前、「世界線」がどうとかって言ってた。


 並行世界がどうちゃらって。


 もちろん意味はよくわからない。


 いまだに。


 つーかやっぱ謎すぎる。


 「別の世界にいる」って、何度も考えた。


 そう考えるしかなかったからだ。


 でもそんなこと、普通じゃ信じられないだろ?

 

 辻褄を合わせようと、できる限りのことは想像したんだ。


 学校の屋上で、寝転びながら。



 夢…じゃないよな?


 1日の中でふと、そう思ってしまう。


 妙に足元がフワフワして、地面がそこに無いくらいに遠い。


 視線がぐらついてしまうのはなんでだ?


 わけもわからない不安が、頭の片隅によぎるのは?


 もしもここが夢じゃないなら、それを確かめる方法は1つしかないと思った。


 たとえここが別の世界だとしても、あの場所は何も変わっていないはず。


 この街でいちばん静かな、あの場所なら——

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